和食STYLE

豆腐百珍のすべて 51 佳品 引きずりとうふ

時代小説家/江戸料理・文化研究家 ⾞ 浮代(くるま うきよ)



【⾖腐百珍とは】
天明2(1782)年5月に刊行され、大ベストセラーになった江戸時代のレシピ本。豆腐料理だけを100品、6段階に分けて紹介するという斬新さで話題に。大根、卵、鯛、蒟蒻といった百珍ブームのきかっけとなり、『豆腐百珍続篇』『豆腐百珍餘録』も刊行された。

今回ご紹介する『引きずりとうふ』、遊び心に溢れた一品です。

椀が出てきて、蓋を開けると湯豆腐が一丁。薬味も調味料もなく、どうやっていただくのかと椀の蓋をひっくり返すと、山葵味噌がくっついているという趣向です。

原本にも「もししらぬ人は、ふたをとりて、豆腐ばかりなりと思ふなり。手とり(器用な人)の一興なるべし」とあります。

「なるほど、そういうことか」と、湯豆腐を箸で一口大に切って取り、反対側の手で蓋を仰向けにして持ち、豆腐を山葵味噌に擦りつけていただきます。この時、蓋に山葵味噌を引きずったような跡がつくため、この名がついたものと思われます。

現代ならば、山葵味噌の方を箸で少しつまんで、湯豆腐に乗せていただきそうなものですが、「とうふをみそに引きずり、食する也」と書かれていますので、やはり豆腐の方を味噌につけねばいけません。

それにしても、運んでいるうちに山葵味噌が蓋から落ちれば、せっかくの趣向が台無しです。味噌の練り加減が重要な料理です。

■引きずりとうふレシピ
【材料】
お好みの豆腐…椀のサイズに合わせる
葛(片栗粉でも可)…適量
<山葵味噌>
白味噌…大さじ3
酒…大さじ2
擂った白ごま大さじ1
擂ったくるみ…大さじ1
おろし山葵…適量

【作り⽅】
1. 豆腐は葛を溶かした湯でトロトロと煮ておく。
2.小鍋におろし山葵以外の材料を入れて、弱火で練りながら、滑らかになるまで温める。
3.2におろし山葵を入れてよく混ぜ、椀の蓋につける。
4.1を葛湯ごとすくって椀に入れ、3の蓋をして出す。

※記事と写真の無断転載を禁じます

⾞ 浮代
(くるま うきよ)

時代小説家/江戸料理・文化研究家。
江戸時代の料理の研究、再現(1200種類以上)と、江戸文化に関する講演、NHK『チコちゃんに叱られる!』『美の壷』『知恵泉』『歴史探偵』等のTV出演や、TBSラジオのレギュラーも。
著書に『江戸っ子の食養生』(ワニブックスPLUS新書)、『免疫力を高める最強の浅漬け』(マキノ出版)など多数。小説『蔦重の教え』はベストセラーに。
最新刊は『発酵食品でつくるシンプル養生レシピ』(東京書籍)。
http://kurumaukiyo.com

『江戸っ子の食養生』
『免疫力を高める最強の浅漬け』
『蔦重の教え』
『発酵食品でつくるシンプル養生レシピ』