⾼橋綾⼦のNO SUSHI, NO LIFE – 第一二回 鮨おばな
第一二回 鮨おばな
新月と満月の塩を使いわけるサーファー鮨職人
いやぁ、遠かった。片道2時間。群馬県館林にある「鮨おばな」。改札を抜けて信号ひとつ越すとお店はなくなり住宅がポツンポツンと並ぶ道を 10分弱。 1軒がでかいから家の灯りは歩道から随分奥にあったりしてひっそり感がすごい。車道が 2車線ずつあるくせに夜はほとんど車が通らず、さらにひっそり。子供がひとりで歩いてて 連れ去られたら……、とか考えてしまい自然と早歩きになってしまう。そして目的地は国道から 最後一回 曲が って50mくらいあるんだけど、ここが本当に真っ暗でめちゃ怖い。思わず携帯のライトつけて走ってしまいました。
でも暖簾をくぐればお店は明るく、店名が刺繍されたふわふわのお手拭きが温かくホッとします。ビールで喉を潤してつまみ11種、握り16種のおまかせコースがスタート。こちら「浜中さんのバフン雲丹のパフェ」「いくら」「海老丼」というスペシャリテがあり、雲丹パフェは要予約。しかも2万円以上のコースじゃないと食べられない。いったいどんだけのものがくるのかと期待に胸膨らませていると、パフェグラスに雲丹でコーティングした酢飯を入れその上に雲丹が盛り盛りの雲丹まみれ。雲丹好きは必須ですね。
「海老丼」は水揚げ量が極端に低く幻の海老と呼ばれる「ぶどう海老」にアメリケーヌソースからヒントを得たという14年継ぎ足しのタレを絡めています。さらに醤油漬けにしたぶどう海老の卵をのせていただくんですけど、ぼたん海老より数段甘くてねっとりしてヤバうまです。 「いくら」は冷凍することでとろとろの卵と化し、確かにスペシャリテと言われるだけある! つまみも握りもヤバうまが続き絶叫状態!
そもそも群馬は海無し県。なのになんでお鮨なんですかと店主の尾花 輝さんに直撃したところ、サーファーということが判明。茨城や千葉の海で波乗りしながら漁師さんと仲良くなったそう。また築地にも自ら通い仲卸さんを口説いて有名鮨店でも手に入らないような上質な食材を仕入れするというガッツと根性があるゆえ、たとえ遠くても海無し県でも食べログは4点越えで予約も取れないんだと思われます。
その尾花さんが見つけた食材のひとつが千葉県の「勝浦塩製作研究所」の満月と新月の塩。ともかく満月だとミネラル豊富でコクと塩味が強く、新月だと塩分濃度は低くなって、握りには満月を使うそう。すごく興味を引く話で、うっかり両方購入したくらいなんですが、ここで書くと終わらないので気になる人は検索してください。またお伺いしたいのは山々ですが、遠いのと夜道が怖いのでノンアル派で車運転できる人を見つけなきゃ。

(たかはしあやこ)
フードパブリシスト。国内外ファッションブランドのプレスとして従事した中で肥えた“⾷” へのこだわりは、その後の素晴らしい⼈々との出会いと相まっていつしか⼈⽣そのものに。その間に培った⾷のデータと⼈脈を武器に、年間 1000 軒ほどの外⾷で“喜ばれるレストラン”の発掘に勤しむ⽇々。「綾⼦のギョーカイ総受けグルメ⼿帖」「BRUTUS」「GQ」「⾷べログマガジン」「集英社オンライン」などに寄稿。BS フジ「リモート☆シェフ」では審査員として定期的に出演。おいしいものしか喉を通らない不思議体質。
綾⼦の⾃分勝⼿評価基準
おひとりさま度:ひとりではもちろんのこと、たとえ初めてでも楽しめるかどうか。また何か素敵なことが起こるか、客層はどうかも含む。
⼝福度=価格の満⾜度:鮨⾼騰の折、基準は⾷べて飲んで 4万円以下。おいしいは当然、⽀払いをした時にどう感じたか。
ロケーション&設え:「google map」で迷わずたどり着けるか。内観のセンス、器や酒器、トイレの清潔感など店内の印象。
サービス:スタッフの接客の満⾜度
のどの渇き度:完璧に個⼈的主観だが、塩分過多などでのどが乾くような味が苦⼿。評価は星が多いほど、のどは渇かないということ。
【評価】
おひとりさま度 ★★★
⼝福度=価格の満⾜度 ★★★
ロケーション&設え ★★
サービス ★★★★
のどの渇き度 ★