豆腐百珍のすべて 49 佳品 備後とうふ
時代小説家/江戸料理・文化研究家 ⾞ 浮代(くるま うきよ)
【⾖腐百珍とは】
天明2(1782)年5月に刊行され、大ベストセラーになった江戸時代のレシピ本。豆腐料理だけを100品、6段階に分けて紹介するという斬新さで話題に。大根、卵、鯛、蒟蒻といった百珍ブームのきかっけとなり、『豆腐百珍続篇』『豆腐百珍餘録』も刊行された。
『備後(びんご)とうふ』と呼ぶからには、備後国(現在の広島県東部)に伝わる料理なのでしょう。原本の解説の最後に、「これ草の織部とうふ也」とあるので、関西以東では『織部とうふ』として知られた、美濃地方の郷土料理だったのかも知れません。頭に「草の」とついているのは一般的な庶民料理を意味します。
さらに原本では、「織部とうふは続編に出す也」と書かれています。と言うことは、最初の『豆腐百珍』を出したときに続編の刊行がすでに決まっていたものか、もしくはベストセラーゆえ、増刷を重ねるうちに書き加えられたものなのかは不明です。
それではと『豆腐百珍続編』を紐解いてみると、84番に『織部とうふ』が確かに紹介されています。……が、その工程たるや、豆腐を円筒形に切り、それを転がしながら焼いて4つに切り、鰹だしと豆油と酒で半日あまり煮て、胡桃、茗荷、山葵、浅草海苔をトッピングする……と複雑で、進化系と言うよりは別の料理のように感じます。
さてこの『備後とうふ』、贅沢なのが、焼いた豆腐を酒だけで煮るところです。この時代の日本酒がどのようなものかと申しますと、現在のように精米技術が発達していないせいで、せいぜい8分搗き程度の米で作るため、当然吟醸酒などとはほど遠く、現在の料理酒に近い味わいだと考えられます。
精米が浅いと言うことは雑味が多く、飲料としては飲みづらいですが、熱を加えると旨味に変わり、芳醇な出汁になります。最近は料理酒と水を1:1入れた酒鍋が人気ですが、料理酒(もしくは純米酒)だけで煮た豆腐も乙なものです。
味付けはシンプルに醤油だけで花かつおとおろし大根でいただきます。
■備後とうふレシピ
【材料】
木綿豆腐…1/2丁
料理酒…豆腐が十分浸る量
醤油…大さじ1
花かつお…適量
おろし大根…適量
【作り⽅】
1. 木綿豆腐の水気を切り、適当な大きさに切って両面を焼く。
2.鍋に1を入れ、豆腐がひたひたになるまで酒を注ぎ、弱火で煮詰める。
3.2に醤油を加えてもうひと煮立ちさせ、器に取って花かつおとおろし大根を乗せる。
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(くるま うきよ)
時代小説家/江戸料理・文化研究家。
江戸時代の料理の研究、再現(1200種類以上)と、江戸文化に関する講演、NHK『チコちゃんに叱られる!』『美の壷』『知恵泉』『歴史探偵』等のTV出演や、TBSラジオのレギュラーも。
著書に『江戸っ子の食養生』(ワニブックスPLUS新書)、『免疫力を高める最強の浅漬け』(マキノ出版)など多数。小説『蔦重の教え』はベストセラーに。
最新刊は『発酵食品でつくるシンプル養生レシピ』(東京書籍)。
http://kurumaukiyo.com
『江戸っ子の食養生』
『免疫力を高める最強の浅漬け』
『蔦重の教え』
『発酵食品でつくるシンプル養生レシピ』