和食STYLE

創業473年を迎える「白雪」蔵元の小西酒造さんへ

初めて会ったその日から、午前4時まで呑み明かしたゆうことさちこ。
酒好きな二人の合言葉は、
「酒の一滴は血の一滴! 」

一人でゆっくり味わうお酒も
二人でしっぽり語らう時のお酒も
大人数でワイワイ飲むお酒も
人生を豊かにする大切な相棒。

そんなわけで、
お酒のジャンルごとにそれぞれに深く関わる方々をゲストにお迎えして、
お酒の嗜み方を学び、お酒をますます美味しく楽しもうと決意した次第です。

知れば知るほど奥が深く、味わいもまた一入。
さて、今宵も乾杯しましょうか。

清酒「白雪」の小西酒造さんにお邪魔しました!
「山は富士 酒は白雪」のキャッチコピーで知られる、日本最古の清酒銘柄「白雪」。飲み継がれ、語り継がれて、伝統と旬を持ち合わせた魅力溢れるブランドに。今回は吉峯英虎さんにご案内いただき、伊丹の地で今年創業473年目を迎える「白雪」蔵元の小西酒造さんへ。第15代当主の小西新右衛門社長に、日本酒を取り巻く現況やお酒の嗜み方についてお話を伺いました。

Photo: yOU text: Sachiko Ueda

「不易流行」を経営の理念に

吉峯さん:本日はお忙しい中ありがとうございます。

小西社長:こちらこそお越しいただきありがとうございます。

ゆうこ・さちこ:本日はありがとうございます。宜しくお願い致します。

小西新右衛門社長(左)と吉峰英虎さん(右)

吉峯さん:小西社長とは知人を介して数年前にご縁をいただいてからのお付き合いですが、今回はこの酒好きの二人をお連れしまして(笑)ぜひ色々とお話を伺えたらと思います。

小西社長:私は「不易流行」、つまりふるい伝統を大切にしながら、新しいことにもチャレンジし続けるという信念で経営して参りました。
例えば当時まだ注目されていなかったベルギービールを日本で最初に輸入しまして、それから弊社でも1995年からクラフトビールを手掛けるようになったという経緯があります。日本酒はもちろんですが、美味しいお酒を美味しく飲んでいただく場面やシーン、時間を大切にしたいという考えを持っております。

吉峯さん:東京でご一緒させていただいたときに、お酒だけでなくお酒を囲む雰囲気を大切にしておられるお話を伺って、私も共感しました。

小西社長:まさに雰囲気までがお酒ですね。

白雪ブルワリービレッジ長寿蔵ミュージアムではクラフトビールがいただける

吉峯さん:しかし若い世代の日本酒離れもあって、日本酒を取り巻く環境は厳しいものもありますね。

小西社長:その通りでしてね。我々のようなある程度の数量を造ることが出来るメーカー独特の苦悩もあります。それこそ、吉峯さんと東京のある店でご一緒させていただいたときメニューを見て「大変失礼ながら御宅は兵庫県と京都のお酒は置かれないんですか? 」と店主の方に聞いてしまいました。
この業界は大量に作られた酒は大したことないかのような、すごくバイアスのかかった見方をされることがありまして。数量を造れるメーカーだから繊細なものが作りにくいという面はあるかもしれませんが、だからといって決して美味しいお酒ができないわけではないです。

酒の価値は規模ではなく限界を超える思い

ゆうこ:近年の傾向として、小規模で作り出されるものの方がありがたみがあるというようなイメージがあって、それに左右されてしまいがちなのかもしれませんね。

麹づくりが行われる麹室(こうじむろ)

さちこ:価値観が一方向では、広がりも狭くなってしまいますね。

小西社長:産業革命のとき、機械化が進んでこの業界でも遅れをとった同業が非常に困ったことがあったんです。変革の時代ですね。
そんなとき兵庫県や京都の酒蔵が相当力を発揮して全国に新たな酒造りを広めたという歴史もあります。その名残で兵庫には灘酒研究会もありますし、京都にも同様の技術者集団があります。やはりそのような背景も踏まえて我々の酒を見て欲しいという思いは持っておりますね。

吉峯さん:小さいからいいとか大きいからいいとか、それは本質ではないですね。

小西社長:吉峯さんは日本酒を広げる活動をされる中で、そのようなバイアスのかかった見方をされないのが嬉しく、ありがたいです。
ちょうど先日、フィルターでいただくコーヒー店で、バリスタが一つ一つ説明をしながら時間をかけて淹れてくださるコーヒーをいただいて感激しました。それは酒造りにおいて考えるヒントにもなりました。限界を超えられるかどうかについてうちの技術者ともよく話をするのですが、例えばあるところを目指したときに少量だとできるのかどうなのか。タンクの大きさや、どの規模のお酒を作るかによってもやはり違うのです。小さければ良いということでもなければ、大きいから美味しいものができないというわけでもない。
量産するようになった食品メーカーでも美味しくなくなったとか言われることがありますが、それでも美味しいところはいっぱいありますから、そんなことでは区分はできないと。私どもが目指しているお酒で言うと、どの規模でどのように作っていくのが大事か、どう突き詰めていったら良いかについて技術者と話をするわけです。

ゆうこ:ちょうどいい塩梅というところですよね。

吉峯さん:京都にとある餃子屋さんがあって、追加注文したらちょっと味が違ったので「失礼ながら、最初のものと味が違いますね」とお店の方に話したところ「わかりますか。実はタネを1日置いたものと2日置いたものなんですよ」と言われまして。そのくらい状態というのは繊細に変わるものですからね。

仕込みに使われる木桶

原酒が貯蔵されたタンク

小西社長:本当にそうですね。技術もその繊細さとのせめぎ合いです。私は自分のことをマーケティング大好き人間と思っているのですが(笑)、少量のお酒づくりは希少価値ということで珍重されます。でも人気が出て注文が殺到すると何ヶ月待ちといった状態になる。それも一つのマーケティングとして素晴らしいと思います。
では高度経済成長時代に、なぜうちが大事にされたかというと、物が無いなかで一定のものを広く出すことができた。それが一つの価値だったわけです。

さちこ:なるほど。時代の変容だとしても、いつも多様さは求められますね。小西社長:例えばフランスでのワインの製造方法では、樽香をつけるために木のチップや棒をタンクにいれても酒税法違反にはならないのです。木の樽ではなくステンレスタンクの中に木の棒を入れてワインを製造しても問題はなく、樽香をつける一つの技術です。
しかし日本の場合、樽酒を製造する際にそれを行うと酒税法違反になります。木の樽で貯蔵した以外のものを樽酒と言ってはいけないのですね。ですから木樽で完成させるしか方法はありません。そういうことをご存知の方はなかなかいらっしゃらないですが、樽酒をある程度の量を造れるのはうちともう一社くらいしかありません。

「白雪」の樽酒

お酒は「嗜み」。だから空気感も大切

ゆうこ:我々の世代で「白雪」を知らない人はいませんよね。

さちこ:「白雪」の代々のコマーシャルも文化ですね。今回お邪魔させていただくにあたってYouTube で懐かしいCMも拝見しましたが、ああこれも「白雪」のコマーシャルだったんだ、なんて。

ゆうこ:さらに世代を越えて日本酒を広く認知させることにも貢献しておられますよね。

小西社長:ありがとうございます。今、一生懸命手掛けておりますのが、復刻酒です。弊社は江戸時代からの古文書をほとんど保存している全国でも数少ない酒造メーカーで、その中の元禄十五年の記録を再現したお酒が「江戸元禄の酒」です。このお酒は精米歩合88%で水を使う割合が現在の半分くらい。それで琥珀がかった色がついています。
甘みと酸味のバランスもかなり良いためか、フランス人の方々にも大変好評いただいております。ちょうど世界酒蔵ランキングが発表されまして、今年(2022)は3位を受賞致しました。

吉峯さん:それは素晴らしいですね。江戸時代のレシピが再現できるのも凄いな。

小西家に伝わる古文書『酒永代覚帖』より、元禄十五年のレシピを再現した「江戸元禄の酒」

小西社長:日本酒の飲み方はまた独特ですね。ワインは料理と合わせながら香りも楽しみますが、口の中で食べ物と合わさるような飲み方はしません。しかし日本酒は、まだ口の中に少し料理が残っていても飲んだりします。

吉峯さん:それがまた美味しかったりするんだよな(笑)。

小西社長:酒器にしても、もともとお膳文化の日本は、盃は上から取れる形ですし、ワインは横から持ちますね。今年の「伊丹国際クラフト展」は酒器・酒盃台をテーマに開催されていたのですが、大賞を取ったのは夜光貝で作られた楕円型の作品でした。横につまみ部分がありまして、飲みながら日本酒の香りまで堪能できるのです。これは非常に面白い発見でもあるなと。

さちこ:日本酒をそういう形の盃で飲むという習慣はありそうでなかったですね。日本酒の香りももっと楽しめますね。

小西社長:そうですね。ですから現代において、盃の形についてもいろんな考えがあればと思います。

吉峯さん:飲み方の提案というのも面白い。器によって味は変わるものですしね。

ゆうこ:好きな酒器を買ったから日本酒が飲みたいという動機づけにもなる気がします。私も片口が好きで、いいものを見つけるとつい買ってしまうのですが、それを使うために日本酒を買うということもありまして(笑)。

吉峯さん:日本酒を広げていく上で、こういう酒器を使うから美味しいとか、お酒の周りからの文化の部分だってかなり大事だと思うんですよ。米を何%削った米でといったことがお酒の判断基準になりがちだけど、それだけではなかなか飲もうという動機にもならないから。

小西社長:ちょうど新聞で日本酒の特集が掲載されていたのですが、テレワークから通勤に戻りたいと希望する人の多くは酒好きだと(笑)。

吉峯さん:みんなで飲みたいんだね(笑)。

小西社長:お酒の飲み方にしても、お酒は「嗜む」という言い方があるように、嗜むという楽しみ方も一つで、たくさん飲むことが酒好きというわけではないですから。もちろん、たくさん飲んでいただけると嬉しいんですけどね(笑)。

ゆうこ:私たちの連載も「お酒の嗜み入門」なのですが、嗜みは文化ですね。小西社長は日本酒を取り巻く“空気感”というものをとても大切にされていらっしゃるんですね。

小西社長:空気感と言っていただけると嬉しいですね。

さちこ:本来日本酒を飲むことはもっと感覚的なんでしょうね。米を何パーセント磨いたといった薀蓄よりも、空気感の楽しみ方を伝えることで世代を超えていくように思います。

日本酒業界にもサステナブルの波

小西社長:今はSDGsというキーワードがあちこちで聞かれますし、カーボンニュートラルで作られたお酒なんていうのも出てきてそれはそれで素晴らしいと思います。ただ思うのは、470年の歴史はサステナブルではなかったのかと。

一同:(笑)

頼山陽の書による「白雪」の看板

小西社長:一升瓶などリサイクルのお手本と言われているようなものも、実のところ一般家庭での使用率は低く、大半が業務用でしか使われてないのが実情です。それと日本酒は冷やす作業にエネルギーを使いすぎているのではないかという意見もあるのです。

ゆうこ:そんな指摘もあるなんて。日本酒業界のサステナブルな考えも気になります。

小西社長:昔はそんなに冷やして飲むということもしていなかったし、自然な飲み方への回帰は今こそ新しいし、時代のニーズにも添えるかもしれません。

吉峯さん:常温で飲ませてくれる店が最近少なくてびっくりしてしまうんですよ。昔は回転も早かったから冷蔵庫に入れなくても常温でおいしかったんでしょう。

さちこ:確かに冷や、もあまり通じないし、常温のお酒は外ではなかなか飲めませんね。

小西社長:常温で美味しいお酒も、少し温めたら美味しくなるお酒も実はたくさんあるのですよ。何でもかんでも冷やせばいいというものでもありませんし、ご自身の感覚を大切にしながら楽しんでいただきたいですね。

吉峯さん:それも技術の能書きではなく、嗜みですね。その自然な形が、結果的にサステナブルにも繋がるのでしょうし、感覚や空気感を大切にした日本酒の楽しみかたこそが、世代や国を越えての普及に繋がりそうです。

小西新右衛門(こにし しんうえもん)さん
1952年生まれ。小西酒造十五代当主。1991年に小西酒造株式会社 代表取締役社長に就任。
大学卒業後にイギリスに留学しマーケティング論を学ぶ中で、歴史ある小西酒造の将来についてのヒント得、当時より様々な価値観や多様性に着目してきた。社長就任後は「不易流行」を経営理念に掲げ、独自のマーケティング戦略を展開。変わらないもの、変えてはならないものを大切にしつつ、社会の変容や現代のニーズに的確に対応できるようチャレンジを続ける。創業470年を迎えた節目の2020年に新右衛門を襲名。「清酒発祥の地」としての伊丹を、様々な活動を通して国内外にPRしている。伊丹商工会議所会頭。

小西酒造

伊丹の地で、天文19(1550)年酒造業を本業とした初代・小西新右衛門宗吾の祖父が薬種業を営み、濁酒作りを開始。寛永12年(1635年)頃、2代目宗宅は江戸へ酒樽を運ぶ途中、雪をいただいた富士の気高さに感動、清酒に「白雪」と名付けた。
代表銘柄の「白雪」は現存する最古の清酒銘柄。「小西新右衛門氏文書」「白雪ブルワリービレッジ長寿蔵」は令和2年度の『日本遺産』構成文化財に選出された。ベルギービールの製造技術に発酵など日本酒づくりの技を加えたJAPAN ALEのKONISHIビールも製造。のお酒を飲む機会と場を大切にし、食事を引き立て、会話が弾む酒を造り続けている。
https://www.konishi.co.jp

白雪ブルワリービレッジ長寿蔵ミュージアム

9世紀に建てられた酒蔵を改装し、小西酒造の酒造りの歴史を伝えるミュージアムと、蔵元自慢の日本酒やクラフトビールが楽しめる直営レストランを併設。ミュージアムには昔実際に使われていた酒造りの道具130種200点以上が展示され、「丹醸」として名声を得た伊丹の酒造りの歴史を、学べるようになっている。酒蔵ならではのモチーフを背景に3Dアート写真が撮影できるフォトスポットも。レストランでは日本酒やKONISHIビールの飲み比べができ、美味しい料理と共に楽しめる。

兵庫県伊丹市中央3丁目4番15号
Tel 072-773-0524
入館料・無料
休館日・毎月第二火曜日、年末年始

吉峯英虎(よしみね・ひでとら)さん
1954年大阪生まれ、鹿児島育ち。一橋大学法学部卒業後、味の素株式会社に入社。食品の開発やマーケティング等と担当し、1997年スイスローザンヌのIMDにてPEDコース修了。2000年よりアメリカで責任者として冷凍食品事業を立ち上げ、2011年より2019年まで味の素冷凍食品株式会社社長を務める。2000年代中盤に「日本酒唎酒師」資格取得し、現在は日本酒の復興運動に奔走中。著書に『酒を愛し・酒に学ぶ』(エクセレントローカル出版部)。通称チャーリー。

yOU/河崎夕子(かわさき・ゆうこ)

神奈川県逗子市出身の写真家。青山学院大学経済学部卒。雑誌、広告、ポートレイト、風景、料理写真中心に活動するほか、旅メディアの執筆(現在雑誌「旅の手帖」とweb「旅恋」で連載中)TV出演、国内外の地域ブランディングのプロジェクトへの参加も。2003年初個展「SHARE」から、これまでに12回の個展を開催。2013年フォトエッセイ「酒場のおんな」出版。現在は、複数のアパレルとのコラボでフォトTシャツがリリースされている。趣味は旅とアートともちろんお酒。
http://www.youk-photo.com

上田祥子(うえだ・さちこ)

1972年福岡生まれ。國學院大學神道文化学部卒。美容研究家・サン・ロータス株式会社代表取締役。「弥勒寺子屋」主宰。第17代クラリオンガールに選ばれ、モデル、レポーターなどを経て、ライターに。その後、2000年より3年間、アメリカ(NY、LA)に滞在し、英語、広告デザイン等を学ぶ。現在は、女性誌やウェブマガジン等に美容・健康を軸とした執筆、またコメンテーターとしてTV出演中。商品企画アドバイザー。神職資格を取得し、神主としても活動している。
https://miroku-terakoya.com

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