和食STYLE

日本名産紀行 柘いつか 第46回 福井県 五湖の駅のへしこ

作家/旅行作家 柘いつか – Itsuka Tsuge –

へしこは若狭や越前・丹後地方の魚類の保存食
福井県若狭美浜町の「へしこ」は名物で、特に美味しいと評判です。

若狭地方で「へしこ」と呼ばれるには諸説がありますが、大きな樽(4斗)に鯖やいわしをギュギュッと敷き詰め込むことを「へし仕込む」と言ったことから「へしこ」と名付けたという、これが通説となっています。もう一説は、塩漬けにした魚から浮き出してくる塩汁(ひしお)が転じたというものもあります。

血圧抑制効果のある健康食品
冬の積雪、日本海の荒波で天候が悪くなると、漁師達は小型漁船では漁に出られない日も多く、「へしこ」はそんな非常の事態の備えた貴重なタンパク源でした。

各種ミネラルとアミノ酸の微妙なバランスの上に成り立った発酵食品です。生のに比べて、アミノ酸が2.5倍。ペチプドは5倍になり、血圧の上昇を控えてくれると、福井県立大学生物資源学部の赤羽善章教授も研究発表されています。

ひとつひとつ丁寧に。心を込めて漬けこんだ秘伝の味

昔は漁師の家でなくても、どの家庭にも「へしこ」の樽が大根の沢庵と同じように、納屋にありました。物が豊富に無かった時代、厳しい自然環境の中で育まれた「へしこ」は、保存食として根付いただけでなく、物々交換のように、いただきもののお返しに家庭の味がやり取りされたために、「お母ちゃん」達がその家その家独特の味を追求し工夫し、熟成した旨味が増すよう、進化したのが現在の「美浜のへしこ」なのです。

作業工程にも二段階の漬け押しがあり、最後の本漬けに使用する調味料に、それぞれの家庭の味を出すように工夫されてきました。
北陸地方では魚を米糠で漬け込んで長期間熟成させた「小糠漬け」と呼ばれる製法で、極寒の時期に鯖やいわし等を背割りして塩漬けにし、その後、糠と調味料を合わせた(しえ)ものに漬け込んで夏の土用を越し、半年以上発酵熟成されたものを言います。美浜町では、塩と糠だけでなく、醤油みりん、唐辛子も使用されています。

例えは悪いですが、ガムを噛んでどんどん味がなくなるのとは逆で、噛めば噛むほど味が変化して味わい深くなっていく、そんな感じです。毎日少しずつ食べたくなるような、クセになるのが「へしこ」です。

▪日向へしこ工房「勘兵衛」
福井の海と山に囲まれた漁師町で、勘兵衛の屋号の工房で作られた、鯖へしこ1本もの。無添加にこだわった素材を生かした味わい、うす塩で1年間じっくり熟成させています。

▪へしこBURN!!(鯖へしこのスライス焼き)
木樽で醗酵熟成させた「へしこ」をスライスして焼いています。水洗いはせず、適当な大きさに切り分け、糠を軽く落とし、弱火で香ばしく炙ります。袋からお皿に出して10秒ほどレンジで温めるか、袋ごと湯煎で1分ほど温めて、お茶漬けや出汁茶漬けなど、お酒のお供にもピッタリ!少しだけ召し上りたい方向けです。

▪鯖の糠漬けへしこのオリーブオイル漬け(1袋)
「へしこ」をスライスし、オリーブオイルに漬けこみました。 アンチョビ替わりにパスタやピザ、チヂミやカナッペなどにいかがでしょうか?クリームチーズやアボカド、根菜との相性が非常によく 日本酒はもちろんのこと、ワインなどにも相性抜群です。

美浜のへしこ 五湖の駅 ネットショップ
https://gokonoeki.theshop.jp

柘いつか – Itsuka Tsuge –

作家。東京都生まれ。
世界50 カ国以上を訪れ、各界に多彩な人脈を持つ。山の生活のムーミン谷は卒業して、今度は海の生活のトカイナカ(都会田舎)に移住することを考えている今日この頃。
『一流のサービスを受ける人になる方法 極(きわみ)』(光文社)が好評発売中。ベストセラーとなった『別れたほうがイイ男 手放してはいけないイイ男』『成功する男はみな、非情である。』はアジア各国で翻訳された。
北海道の専門誌『カーピアセロム』で「いつかの世界通信」連載開始。
https://itsuka-k.com