和食STYLE

豆腐百珍のすべて 47 佳品 薯蕷かけ豆腐

時代小説家/江戸料理・文化研究家 ⾞ 浮代(くるま うきよ)



【⾖腐百珍とは】
天明2(1782)年5月に刊行され、大ベストセラーになった江戸時代のレシピ本。豆腐料理だけを100品、6段階に分けて紹介するという斬新さで話題に。大根、卵、鯛、蒟蒻といった百珍ブームのきかっけとなり、『豆腐百珍続篇』『豆腐百珍餘録』も刊行された。

『薯蕷かけ豆腐』は、タイミング勝負のお料理です。
濃いめのすまし汁に山の芋のとろろを浮かべ、ふわりと膨れ上がった瞬間、葛湯で温めたうどん状の豆腐を、素早く湯切りして器に移し、上にかける。
原本では、それぞれの鍋の間合いが大事なので、料理人が二人でかからなければならないと書かれています。

ここで言う「山の芋」とは長芋ではなく、トリュフを大きくしたような感じの、丸くて黒くてゴツゴツした芋のことです。粘り気が強く、すりおろしたとろろは箸で持ち上がるほど。その分、火が入りすぎると硬くなってしまうので、良い塩梅に出汁を吸いつつ、とろみも粘りもふんわり感もある、絶妙なタイミングを見極めなければなりません。

また、葛湯で茹でた豆腐は、コーティングされている分、型崩れしにくく、舌触りが滑らか。とろろとも絡み易くなるので大事な一手間なのですが、目を離すと豆腐がくっついたり、鍋が焦げたりするため、豆腐をうまく泳がせながら温め、麺状の形を崩さないよう、素早く湯切りする技術が必要です。

器も原本では「小奈良茶碗」と指定があるのですが、蓋付きの茶碗が手元になかったため、漆の平椀を使いました。

■薯蕷かけ豆腐レシピ
【材料】
絹ごし豆腐…1丁
山の芋…1個(長芋を使う場合は卵白を加える)
葛粉(片栗粉)…大さじ1
鰹出汁…400ml
酒…大さじ2
醤油…大さじ2
胡椒…少々
青海苔…少々

【作り⽅】
1. 山の芋は皮をむいてすり下ろし、さらにすり鉢で滑らかになるまでする。
2.豆腐はうどん状に細長く切り、葛粉(片栗粉)を溶かして温めた鍋で茹でる。
3.鍋で鰹出汁を温め、酒と醤油で味を整えたら、1をお玉で流し入れ、とろろが膨らんだら火を止める。
4.2を湯切りして蓋つきの椀に入れ、3を乗せる。お好みで胡椒や青海苔を振りかける。

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⾞ 浮代
(くるま うきよ)

時代小説家/江戸料理・文化研究家。
江戸時代の料理の研究、再現(1200種類以上)と、江戸文化に関する講演、NHK『チコちゃんに叱られる!』『美の壷』『知恵泉』『歴史探偵』等のTV出演や、TBSラジオのレギュラーも。
著書に『江戸っ子の食養生』(ワニブックスPLUS新書)、『免疫力を高める最強の浅漬け』(マキノ出版)など多数。小説『蔦重の教え』はベストセラーに。
最新刊は『発酵食品でつくるシンプル養生レシピ』(東京書籍)。
http://kurumaukiyo.com

『江戸っ子の食養生』
『免疫力を高める最強の浅漬け』
『蔦重の教え』
『発酵食品でつくるシンプル養生レシピ』