和食STYLE

豆腐百珍のすべて 43 佳品 海胆田楽

時代小説家/江戸料理・文化研究家 ⾞ 浮代(くるま うきよ)



【⾖腐百珍とは】
天明2(1782)年5月に刊行され、大ベストセラーになった江戸時代のレシピ本。豆腐料理だけを100品、6段階に分けて紹介するという斬新さで話題に。大根、卵、鯛、蒟蒻といった百珍ブームのきかっけとなり、『豆腐百珍続篇』『豆腐百珍餘録』も刊行された。

『豆腐百珍』には、13種類の田楽料理が掲載されているのですが、これらの中で最も贅沢感があるのが、この『海胆(うに)田楽』です。

本書の注釈に「対馬と、肥前の平戸より産(いづ)るうにを最(もっとも)上品とす。越前の藍川はこれにつぐもの也」とあります。

最上級品の産地と書かれている対馬と平戸は、現在も長崎県にある地名で、ムラサキウニや、幻と呼ばれる希少なアカウニ(エゾバフンウニとは別物)の産地で知られています。

近年のうにの漁獲高は、57.5%という圧倒的1位が北海道、2位が11%強の岩手、3位が8%強の青森、4位が6%の宮城県と、北海道と東北だけで83.5%も占めています。

遠く離れた長崎は3%弱で、山口県に次いで6位。江戸時代は氷河期と言われるほど、地球全体が冷え切っていた時期でしたので、現在の東北方面の水温が、当時の九州の水温程度と考えれば、産地が北に移ったのも合点がゆきます。

次に良いとされた越前の藍川は、福井県にあった地名です。現在、福井県のうには漁獲高として上がってきてはいませんが、福井県には奈良時代の昔から、生うにに塩を混ぜて甕で熟成させた「泥うに」という加工品を朝廷に献上していたそうです。

現在も福井市に本店を構える、文化元年(1804年)創業の『天たつ』では、日本最古の雲丹商として、三代目が福井藩主の命を受けて考案した「汐うに(生うにを乾燥させながら塩蔵したもの)」を作り続けていらっしゃいます。

■海胆田楽レシピ
【材料】
木綿豆腐…1/2丁
塩うに(生うにの場合はキッチンペーパーの上に一つづつ並べ、塩を振って水気を切る)…大さじ1
酒…大さじ1

【作り⽅】
1. 塩うにと酒をよく練り合わせる。
2. 豆腐はよく水切りして長方形に切り、串を刺して両面を焼く
3. 片面に1を塗り、表面を軽く炙る。

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⾞ 浮代
(くるま うきよ)

時代小説家/江戸料理・文化研究家。
江戸時代の料理の研究、再現(1200種類以上)と、江戸文化に関する講演、NHK『チコちゃんに叱られる!』『美の壷』『知恵泉』『歴史探偵』等のTV出演や、TBSラジオのレギュラーも。
著書に『江戸っ子の食養生』(ワニブックスPLUS新書)、『免疫力を高める最強の浅漬け』(マキノ出版)など多数。小説『蔦重の教え』はベストセラーに。
最新刊は『発酵食品でつくるシンプル養生レシピ』(東京書籍)。
http://kurumaukiyo.com

『江戸っ子の食養生』
『免疫力を高める最強の浅漬け』
『蔦重の教え』
『発酵食品でつくるシンプル養生レシピ』