和食STYLE

豆腐百珍のすべて 41 佳品 青海とうふ

時代小説家/江戸料理・文化研究家 ⾞ 浮代(くるま うきよ)



【⾖腐百珍とは】
天明2(1782)年5月に刊行され、大ベストセラーになった江戸時代のレシピ本。豆腐料理だけを100品、6段階に分けて紹介するという斬新さで話題に。大根、卵、鯛、蒟蒻といった百珍ブームのきかっけとなり、『豆腐百珍続篇』『豆腐百珍餘録』も刊行された。

「青海(せいがい)」と聞いて浮かぶのは、「青海波(せいがいは)」と呼ばれる波をイメージした文様です。同心円を半分ずつ重ねたもので、鯉のぼりの胴体の、鱗を表現するのによく使われている模様といえばピンとくるのではないでしょうか。

古いところでは、日本では埴輪の着物の柄にも使われているそうですが、この模様が「青海波」と呼ばれ流ようになったのには、二つの説があります。

一つ目は平安時代、舞楽の「青海波」という曲を舞う際には、必ず波模様の衣装をつけなければいけないため、この模様を曲名で呼んだというもの。『源氏物語』の中にも、光源氏と頭の中将が「青海波」を踊るシーンがありますが、残念ながらいくつか残された源氏物語絵巻には、二人がこの模様の衣装を着ているシーンは描かれていません。

もう一つは元禄時代、青海勘七(せいかいかんしち)という蒔絵の塗師が、粘り気のある黒漆と特殊な刷毛を使ってこの波模様を描くのを得意としていたため、名前を取って「青海波」と呼ばれるようになったというものです。ちなみにこの青海勘七、津軽塗の創始者の池田太郎が江戸で弟子入りし、一子相伝の技術を伝授されて弘前藩に帰藩し、「青海波塗」を伝えたとされています。

さて、その名を冠した『青海(せいがい)とうふ』は、薄葛湯に浮かぶすくい豆腐を波に見立て、炙った青海苔を散らした様が美しい、見事なネーミングだと思います。

■青海とうふレシピ
【材料】
絹ごし豆腐…1/2丁
水…250ml
葛粉(片栗粉)…小さじ1
醬油…大さじ1
青海苔…大さじ1

【作り⽅】
1. 小鍋にお湯を沸かし、水溶きした葛粉を溶かしてとろみをつける。
2. 1に、お玉ですくい取った豆腐を入れ、弱火で10分ほど煮る。
3. 青海苔を弱火で炙ってからよく揉み、粉末にする。
4. 2を器に入れて醤油を回し入れ、3を茶漉しでふりかける。

※記事と写真の無断転載を禁じます

⾞ 浮代
(くるま うきよ)

時代小説家/江戸料理・文化研究家。
江戸時代の料理の研究、再現(1200種類以上)と、江戸文化に関する講演、NHK『チコちゃんに叱られる!』『美の壷』『知恵泉』等のTV出演や、TBSラジオのレギュラーも。著書に『江戸っ子の食養生』(ワニブックスPLUS新書)、『免疫力を高める最強の浅漬け』(マキノ出版)など多数。
小説『蔦重の教え』はベストセラーに。西武鉄道「52席の至福 江戸料理トレイン」料理監修。最新刊は『発酵食品でつくるシンプル養生レシピ』(東京書籍)。
http://kurumaukiyo.com

『江戸っ子の食養生』
『免疫力を高める最強の浅漬け』
『蔦重の教え』
『発酵食品でつくるシンプル養生レシピ』