和食STYLE

豆腐百珍のすべて 38 佳品 苞とうふ

時代小説家/江戸料理・文化研究家 ⾞ 浮代(くるま うきよ)



【⾖腐百珍とは】
天明2(1782)年5月に刊行され、大ベストセラーになった江戸時代のレシピ本。豆腐料理だけを100品、6段階に分けて紹介するという斬新さで話題に。大根、卵、鯛、蒟蒻といった百珍ブームのきかっけとなり、『豆腐百珍続篇』『豆腐百珍餘録』も刊行された。

『苞(つと)とうふ』の苞とは、藁などを束ねて、中に食べ物を入れて包んだものを指します。昔は、藁で包んだ納豆を「苞納豆」、生卵を藁で包んだものを「卵苞」(現在は包める人はわずかですが、その仕上がりは芸術的な美しさです)と呼んでいましたが、最近はあまり聞かない言葉です。

包んで持ち運んでいたものが転じて、お土産のことを「つと」と呼んだ時代もありました。喜多川歌麿の傑作狂歌絵本3部作のひとつ『潮干のつと』は「潮干狩りの土産」という意味で、潮干狩りと貝合わせの風俗画以外は、36種類もの精繊細で美しい貝の図が描かれています。

さて今回の『苞とうふ』、藁ではなく巻き簀(す)で成形した豆腐を蒸したものですが、面白いのが、練った豆腐に甘酒を混ぜているところ。『豆腐百珍』100品中、甘酒を使っているのはこの料理だけです。
本書が書かれた時代、砂糖や味醂が高価だったこともありますが、庶民の料理に甘みを加えるということは、あまりしませんでした。

してみると、見かけはほぼ“色のないだし巻き卵”といった風情ですが、『苞とうふ』はかなり上品な料理だったと言えるでしょう。

■苞(つと)とうふレシピ
【材料】
木綿豆腐…1丁
甘酒…50ml
塩…少々

【作り⽅】
1.水切りした木綿豆腐に、甘酒と塩を加えてよく混ぜ、滑らかになるまで擂り鉢で擂る。
2. 1を棒状にして巻き簀の手前に乗せ、しっかりと巻いて蒸し器で15分程度蒸す。
3. 冷めたら巻き簀を外し、食べやすい大きさに切る。

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⾞ 浮代
(くるま うきよ)

時代小説家/江戸料理・文化研究家。
江戸時代の料理の研究、再現(1200種類以上)と、江戸文化に関する講演、NHK『チコちゃんに叱られる!』『美の壷』『知恵泉』等のTV出演や、TBSラジオのレギュラーも。著書に『江戸っ子の食養生』(ワニブックスPLUS新書)、『免疫力を高める最強の浅漬け』(マキノ出版)など多数。
小説『蔦重の教え』はベストセラーに。西武鉄道「52席の至福 江戸料理トレイン」料理監修。最新刊は『発酵食品でつくるシンプル養生レシピ』(東京書籍)。
http://kurumaukiyo.com

『江戸っ子の食養生』
『免疫力を高める最強の浅漬け』
『蔦重の教え』
『発酵食品でつくるシンプル養生レシピ』