和食STYLE

豆腐百珍のすべて 35 通品 葛田楽

時代小説家/江戸料理・文化研究家 ⾞ 浮代(くるま うきよ)



【⾖腐百珍とは】
天明2(1782)年5月に刊行され、大ベストセラーになった江戸時代のレシピ本。豆腐料理だけを100品、6段階に分けて紹介するという斬新さで話題に。大根、卵、鯛、蒟蒻といった百珍ブームのきかっけとなり、『豆腐百珍続篇』『豆腐百珍餘録』も刊行された。

今回ご紹介する『葛豆腐』は、[通品(世間によく知られていて、調理法を記すまでもない料理)]に分類されているために本書に調理法の記載がなく、世間に知られているという割には資料が少ない、厄介な料理です。

寛政5年(1793年)に刊行された『青もの色々仕法』という料理本に『葛田楽』の作り方が掲載されていますが、こちらは水で溶いた葛粉に砂糖を加えて温め、固まったものを切って串に刺し、味噌をつけて焼く……といった料理で、豆腐を葛で代用した田楽なので、『豆腐百珍』に掲載されるはずはありません。

ヒントとなるのは『葛田楽』の下に小さく記載された『祇園とうふなり』という文字。つまり、『葛田楽』と『祇園とうふ』は同じものだと書かれているわけですが、この『祇園とうふ』についても、製法が色々と伝えられています。

日本生活文化史学者の原田信男教授のご著書では、『祇園とうふ』の解説として、『雍州府志(ようしゅうふし)』という、京都府南部の地誌に書かれた漢語の製法が紹介されています。

意訳すると「豆腐を薄く切り、竹串で貫く。これを少し焼き、薄い味噌汁で煮て、その上に麨粉(はったいこ=麦粉)をつけて食べる」とあり、材料に葛が出て来ないところを見ると、『葛田楽』と同じものではないように思います(『祇園とうふ』は豆腐田楽の始まりとされていますので、次回、もう少し詳しく紹介させていただきます)。

手がかりが掴めないため、今回掲載のレシピは、江戸前料理「なべ家」の元ご主人で、私が最初に江戸料理の教えを受けた福田浩氏の『豆腐百珍』(とんぼの本)のレシピを参考にさせていただきました。

■葛田楽レシピ
【材料】
木綿豆腐…1/2丁
醤油…適量
葛あん(出汁に醤油と塩を加えて濃い目のすまし汁を作り、葛粉でとろみをつけたもの)…適量
焼麩…少々

【作り⽅】
1.豆腐はよく水切りして薄めの長方形に切り、竹串を刺す。
2. 1を軽く炙り、刷毛で前面に醤油を塗る。
3. 2の片面に葛あんを塗り、細かく砕いた焼麩を散らして焼く。

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⾞ 浮代
(くるま うきよ)

時代小説家/江戸料理・文化研究家。
江戸時代の料理の研究、再現(1200種類以上)と、江戸文化に関する講演、NHK『チコちゃんに叱られる!』『美の壷』『知恵泉』等のTV出演や、TBSラジオのレギュラーも。著書に『江戸っ子の食養生』(ワニブックスPLUS新書)、『免疫力を高める最強の浅漬け』(マキノ出版)など多数。
小説『蔦重の教え』はベストセラーに。西武鉄道「52席の至福 江戸料理トレイン」料理監修。最新刊は『発酵食品でつくるシンプル養生レシピ』(東京書籍)。
http://kurumaukiyo.com

『江戸っ子の食養生』
『免疫力を高める最強の浅漬け』
『蔦重の教え』
『発酵食品でつくるシンプル養生レシピ』