和食STYLE

豆腐百珍のすべて 34 通品 やっこ豆腐

時代小説家/江戸料理・文化研究家 ⾞ 浮代(くるま うきよ)



【⾖腐百珍とは】
天明2(1782)年5月に刊行され、大ベストセラーになった江戸時代のレシピ本。豆腐料理だけを100品、6段階に分けて紹介するという斬新さで話題に。大根、卵、鯛、蒟蒻といった百珍ブームのきかっけとなり、『豆腐百珍続篇』『豆腐百珍餘録』も刊行された。

『やっこ豆腐』とは「冷や奴」のことですが、冷蔵庫のなかった当時は豆腐が冷やせないので、冷たい水に入れて提供していました。

そもそもなぜ、冷やした豆腐を「冷や奴」というのかと申しますと、立方体に切った豆腐の形が、大名行列の先頭で、槍や挟箱(はさみばこ)を持つ役目の「槍持奴(やりもちやっこ)」が着ている半纏の紋(濃く染めた半纏に白抜きで、正方形を45度傾けて菱形にしたもの)がな豆腐に似ていたからです。

「奴」とは、使用人や奉公人という意味ですが、特に「槍持奴」は、大名行列の先頭で槍を振り上げたり回したりのパフォーマンスや「奴踊り」を行うこともあって人気が高く、両袖を引っ張って踊る様子から「奴凧」が作られたり、折り紙の題材になったりと、キャラクター的に愛されたようです。

ともあれ、ネーミングの由来から考えると、正方形に切らないと『奴豆腐』あるいは『冷や奴』ではない、ということになります。

またこの、冷たい水に常温の豆腐を入れていただくという方法、少し手間がかかりますが、実は冷やした豆腐より豆の味が際立って美味しいのです。ぜひ一度、試してみてください。

■やっこ豆腐レシピ
【材料】
お好みの豆腐…適量
薬味と調味料…適量

【作り⽅】
1. 豆腐は冷蔵庫から出して常温にし、正方形に切ってボウルに入れ、流水で洗う。
2. 冷やした器に冷水を張り、豆腐を入れる。お好みの薬味と調味料でいただく。

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⾞ 浮代
(くるま うきよ)

時代小説家/江戸料理・文化研究家。
江戸時代の料理の研究、再現(1200種類以上)と、江戸文化に関する講演、NHK『チコちゃんに叱られる!』『美の壷』『知恵泉』等のTV出演や、TBSラジオのレギュラーも。著書に『江戸っ子の食養生』(ワニブックスPLUS新書)、『免疫力を高める最強の浅漬け』(マキノ出版)など多数。
小説『蔦重の教え』はベストセラーに。西武鉄道「52席の至福 江戸料理トレイン」料理監修。最新刊は『発酵食品でつくるシンプル養生レシピ』(東京書籍)。
http://kurumaukiyo.com

『江戸っ子の食養生』
『免疫力を高める最強の浅漬け』
『蔦重の教え』
『発酵食品でつくるシンプル養生レシピ』