和食STYLE

日本名産紀行 柘いつか 第29回 ささき農園の唐津自然薯

作家/旅行作家 柘いつか – Itsuka Tsuge –

縁起がいい出世イモ。粘りばり強く長寿の祝いにも
自然薯は、年々大きく育つから出世イモと呼ばれ、昔から縁起の良い食べ物として、結婚式のお祝い返しや、長寿を祝う贈り物とされてきました。

佐賀県の唐津の自然薯は、昔、藩主への年貢として収められるほど特別なものでした。 唐津の山々は、おいしい自然薯が採れる赤土の山で、なおかつ綺麗な温泉が湧いたからです。赤土の自然薯は美白、美肌で、箸で持ち上がるほど粘り強いのが特徴です。
また、明治38年に発表された夏目漱石の『吾輩は猫である』の中で、唐津の友人から頂いた高価な自然薯を泥棒に盗まれてしまうというエピソードが書かれています。その頃から自然薯は知る人ぞ知る、美味しくて貴重な食材だったようです。

日本で初めて、オーガニック栽培に成功した自然薯
「農薬を使わないと育たない」と言われていた自然薯を、12年の紆余曲折を経て、オーガニック栽培で育てられているのが、唐津市ささき農園の佐々木励さんです。 

その道のりは決して平坦なものではありませんでした、農業は限りある時間との闘いでもあります。自然薯を収穫できるのは1年に1回。何度も失敗して、種芋が病気にかかり、諦めようとしたこともあったそうです。

いよいよ今年もダメなら諦めようと覚悟した年、畑の斜面が豪雨の影響で崩れ、その断面に自生していた自然薯を発見! 農薬も肥料も無く、美しく育った天然の自然薯を目の当たりにした時、雷に打たれたように、これまでの数々の失敗が頭の中で組み立て直され、正しい道筋が見えたように思い、改めて取り組んだところ、初めて無農薬での育成に成功しました。

閃いたのは、自然の山々の環境を再現した『自然循環農法』と呼べるもの。収穫が終わった畑には、わざと雑草を生やします。その理由は、多種多様な雑草を鋤き込むことで、土中のバランスを調え、畑を肥やすため。3年がかりで草を畑に返し、畑を熟成させ、天然の山と同じ環境を作り出すのです。

こうして作った自然薯は、他社と比べて抗酸化活性とシュウ酸カルシウムが低いため、変色しにくく、痒みが出にくいことが証明されています。アレルギー体質のお子様でも、比較的安全にお召し上がりいただけます。

漢方生薬では自然薯は「山薬」と言い、甘い味の働きと温める作用で、胃腸を元気にし、弱った体を補いながら気力をつけます。体の潤いを増やしながらお肌を元気に保ち続けます。

ささき農園の自然薯は、味と品質が認められ、令和元年の大阪G20サミット首脳晩餐会の食材納品として選出されました。リッツカールトンやパレスホテル等、数々のホテルで扱われ、ミシュランに掲載されている星付きレストランでも数多く利用されています。

皮まで食べられる自然薯の、幅広いバリエーション
ささき農園の自然薯は、無農薬栽培なので、皮ごと安心して食べられます。 まずは表面をコンロの火にかざしてヒゲ根を焼きます。
洗って水気を切ったら、そのままおろしても大丈夫ですが、皮を剥く場合は自然薯ではなく、ピーラーを水洗いしながら剥いてください(剥いた皮は、素揚げしてチップスにするのがオススメ)。
おろし金で摺り、その後、できればすり鉢で練ります。練れば練るほど粘りとコクが出ます。

すりおろした自然薯(とろろ)の、美味しい食べ方をご紹介します。

◆ とろろご飯…濃い目の味噌汁を冷ましておき、とろろに少しずつ入れながら伸ばします。温かいご飯にかけて、ごま、ネギ、海苔など、お好みのトッピングでどうぞ。
◆ 落としいも…山芋が酢で固まる性質を生かした郷土料理です。砂糖を溶かした酢に、とろろを落とし入れるだけ。海苔をかけても美味しいです(写真は自然薯に枝豆と海老と細かく切った人参を練りこみました)。
◆ 揚げとろろ…すりおろした自然薯を、190度に熱した油で10秒揚げるだけ。外はサクサク、中はトロトロで新食感の美味しさです。塩で食べても、天つゆで揚げ出しにしても。
◆ まぐろ山かけ…まぐろのヅケにとろろをかけるだけの一品です。ご飯に乗せて丼に。
◆ とろろそば…かけそばにとろろをかけ、うずらの卵を落とせば出来上がり。
◆ とろろお好み焼き…小麦粉を混ぜずに、とろろにキャベツなどの具材を入れて、お好み焼きと同じように焼きます。ふわトロでモチっとした食感が楽閉めます。

ささき農園
https://www.fsec.jp/products/list.php?category_id=718

祐徳稲荷神社にて、
料理撮影担当の車浮代さんと

柘いつか – Itsuka Tsuge –

作家。東京都生まれ。
世界50カ国以上を訪れ、各界に多彩な人脈を持つ。ムーミン谷で人生初のトカイナカ(都会田舎)暮らしを始め、日本の良さを再認識している。
『一流のサービスを受ける人になる方法 極(きわみ)』(光文社)が好評発売中。ベストセラーとなった『別れたほうがイイ男 手放してはいけないイイ男』『成功する男はみな、非情である。』はアジア各国で翻訳された。『月刊パセオフラメンコ10月号』にエッセイ掲載。
https://itsuka-k.com