和食STYLE

豆腐百珍のすべて 27 通品 炙豆腐

時代小説家/江戸料理・文化研究家 ⾞ 浮代(くるま うきよ)



【⾖腐百珍とは】
天明2(1782)年5月に刊行され、大ベストセラーになった江戸時代のレシピ本。豆腐料理だけを100品、6段階に分けて紹介するという斬新さで話題に。大根、卵、鯛、蒟蒻といった百珍ブームのきかっけとなり、『豆腐百珍続篇』『豆腐百珍餘録』も刊行された。

前回で[尋常品]26品が終わり、今回から[通品]10品のご紹介に入ります。

[通品]とは「烹調(りょうりかた=調理法)さして決まりなし。世の人皆よく知るところなれば、調製(しよう=調理法)を記すに及ばず。其名ばかりを出すものなり」とあるように、豆腐屋などに当たり前にあるものだからと料理名が羅列されているだけで、他の90品のように調理法は書かれていません。

確かに10品の中には、今回の「炙(やき)豆腐」を始め、「絹ごし豆腐」「やっこ豆腐」「軟(おぼろ)とうふ」「油煤(あげ)豆腐」など、現在でも製品として販売されているものはありますが、「玳瑠環(ちくわとうふ)」「青菽乳(あおまめとうふ)」「葛田楽」のように、作り方を書いてもらわないと困る料理名もあり、とてもこれらが江戸時代の大坂の町で、当然のように出回っていたとは思えないのです。

逆に[尋常品]12番の「凍(こおり)とうふ」などは[通品]に入っていて欲しい製品名ですし、何より不思議なのが、100品中、田楽料理が14品も入っていながら、最もベーシックな、田楽味噌を塗って炙っただけの「豆腐田楽」が掲載されていないことです。 やはり『豆腐百珍』のカテゴリー分けには謎が残ります。

さて、今回ご紹介する「炙豆腐」。『豆腐百珍』にならってレシピを省こうかとも思いましたが、実際に木綿豆腐を水切りして焼いてみると、市販の「焼き豆腐」とは別の食べ物になりましたので、記しておくことに致します。
市販品は豆腐の表面をバーナーで炙って焼き色をつけただけですが、「炙豆腐」は写真の通り、表面が膨らんで焼き焦げがつき、とても香ばしくて美味でした。軽く塩は振ってありますが、醤油+お好みの薬味や味噌だれ、すき焼きに入れていただくのもお勧めです。

■炙(やき)豆腐レシピ
【材料】
木綿豆腐…1丁
塩…少々

【作り⽅】
1. 水切りした木綿豆腐の全体に塩を振り、少し置いて水気をキッチンペーパーで拭き取ってから、蒲焼きに打つ感覚で串を水平に5本程度打ち、遠火で両面をこんがりと焼く。

※記事と写真の無断転載を禁じます

⾞ 浮代
(くるま うきよ)

時代小説家/江戸料理・文化研究家。
江戸時代の料理の研究、再現(1200種類以上)と、江戸文化に関する講演、NHK『チコちゃんに叱られる!』『美の壷』『知恵泉』等のTV出演や、TBSラジオのレギュラーも。著書に『江戸っ子の食養生』(ワニブックスPLUS新書)、『免疫力を高める最強の浅漬け』(マキノ出版)など多数。
小説『蔦重の教え』はベストセラーに。西武鉄道「52席の至福 江戸料理トレイン」料理監修。最新刊は『発酵食品でつくるシンプル養生レシピ』(東京書籍)。
http://kurumaukiyo.com

『江戸っ子の食養生』
『免疫力を高める最強の浅漬け』
『蔦重の教え』
『発酵食品でつくるシンプル養生レシピ』