和食STYLE

豆腐百珍のすべて 24 尋常品 墨染とうふ

時代小説家/江戸料理・文化研究家 ⾞ 浮代(くるま うきよ)



【⾖腐百珍とは】
天明2(1782)年5月に刊行され、大ベストセラーになった江戸時代のレシピ本。豆腐料理だけを100品、6段階に分けて紹介するという斬新さで話題に。大根、卵、鯛、蒟蒻といった百珍ブームのきかっけとなり、『豆腐百珍続篇』『豆腐百珍餘録』も刊行された。

『墨染(すみぞめ)とうふ』は、前回の『梨子(なし)とうふ』で使った青菜の粉を、焙った昆布の粉に変えた料理で、作り方は全く同じです。

昆布の粉と聞いて思い出すのは「昆布茶」です。実は江戸時代にはすでに、昆布茶なるものが存在していました。ですが現在販売されている微粉末の昆布茶と違い、単に刻んだ昆布にお湯を注いだだけの飲み物でした。
いわば即席の昆布だしで、飲んだ後にはふやけた昆布を食べていました。

ちなみに、昆布が旨味を引き出すことは当時から知られており、安酒を飲む際、湯呑みに昆布の切れ端を入れて熱燗を注ぎ、酒の味をまろやかにする「昆布酒」が飲まれていました。

現在、いくつかのメーカーで作られている、嗜好品としての昆布茶が登場したのは、1918年(大正7年)のことです。
玉露園の創業者・藤田馬三氏が、かつて薬種問屋で務めた経験を生かして、薬研(やげん)を使って昆布を粉にして、塩や砂糖などを加えて味付けした、インスタント飲料としての昆布茶を発明したのが始まりです。

さてこの『墨染とうふ』も、調味はお好み次第とのことですので、前回のようにすまし汁の種にしてもいいのですが、今回は出汁醤油を敷いてみました。

■墨染とうふ レシピ
【材料】
木綿豆腐…1/2丁
薄めの昆布…3g
出汁醤油…50ml
三つ葉、カイワレなど…適量

【作り⽅】
1. 昆布はパリパリになるまで焙り、揉んで細かく砕いておく。
2. 水切りした木綿豆腐をすり鉢でよくすり、1を加えてよくすり混ぜる。
3. ラップで2を適量包んで茶巾に絞り、口をしっかり閉じて熱湯に入れて弱火で5分ほど茹でる。
4. 器に出汁醤油を張り、3を乗せて三つ葉などをトッピングする。お好みで薬味を添えても

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⾞ 浮代
(くるま うきよ)

時代小説家/江戸料理・文化研究家。
江戸時代の料理の研究、再現(1200種類以上)と、江戸文化に関する講演、NHK『チコちゃんに叱られる!』『美の壷』『知恵泉』等のTV出演や、TBSラジオのレギュラーも。
著書に『江戸っ子の食養生』(ワニブックスPLUS新書)、『免疫力を高める最強の浅漬け』(マキノ出版)など多数。
小説『蔦重の教え』はベストセラーに。西武鉄道「52席の至福 江戸料理トレイン」料理監修。最新刊は『発酵食品でつくるシンプル養生レシピ』(東京書籍)。
http://kurumaukiyo.com
『江戸っ子の食養生』
『免疫力を高める最強の浅漬け』
『蔦重の教え』
『発酵食品でつくるシンプル養生レシピ』