和食STYLE

豆腐百珍のすべて 19 尋常品 ヒリヤウヅ

時代小説家/江戸料理・文化研究家 ⾞ 浮代(くるま うきよ)



【⾖腐百珍とは】
天明2(1782)年5月に刊行され、大ベストセラーになった江戸時代のレシピ本。豆腐料理だけを100品、6段階に分けて紹介するという斬新さで話題に。大根、卵、鯛、蒟蒻といった百珍ブームのきかっけとなり、『豆腐百珍続篇』『豆腐百珍餘録』も刊行された。

原本に『ヒリヤウヅ』とあるのは「飛竜頭」のことです。語源はポルトガル語の「Filhós(フィリョース)」で、漢字は当て字なので、「飛龍頭」「飛竜子」などとも書きます。料理の見栄えからすると、ずいぶんと猛々しい文字を当てたものだとギャップを感じます。

「Filhós」は、戦国時代にポルトガルの宣教師から伝えられた伝統的な揚げ菓子です。おそらく新しいもの好きで南蛮貿易を推奨した織田信長も食したことでしょう。

小麦粉と卵と砂糖を混ぜて油で揚げ、シナモンと砂糖をふりかけたシンプルなもので、形はマーガレットのような花型のものから、円盤型、楕円型、卵型などさまざまあります。レシピを見る限り、ほぼ揚げパンかドーナツといった感じです。

この「Filhós」、小麦粉の代わりに米粉を使って日本で作られるようになり、「飛竜頭」という南蛮菓子になりました。

江戸時代になると、1697年刊行の『和漢精進料理抄』に掲載されている「豆腐巻(とうふけん)」という料理に見た目が似ていたことから、「豆腐巻」は「飛竜頭」と呼ばれるようになり、江戸後期には南蛮菓子であったことは忘れ去られ、惣菜として定着しました。

ちなみにこの「飛竜頭」、主に西日本での呼び方で(筆者は大阪出身ですが、「ひりょうず」が略され「ひろうす」と呼ばれていました)、東日本では「がんもどき」となります。漢字で書くと「雁擬き」。雁のつくねに似せて作られた精進料理で、元は豆腐ではなく、凍みこんにゃくで作られていたため、弾力があって、雁の肉に似ていたようです。

つまり「飛竜頭」と「がんもどき」は西と東で別々に発生し、それぞれが変化するうちに似てきてしまい、今や異名同品になってしまったというわけです。

さて、『豆腐百珍』に掲載されている19番の『ヒリヤウヅ』は、数種の具材を、豆腐を潰して作った衣で包んで揚げており、現在の、豆腐に具材を混ぜ込んで揚げる作り方とは異なります。

■ヒリヤウヅ レシピ
【材料】
<衣>
木綿豆腐…1/2丁
葛粉(片栗粉でも可)…大さじ1
<具材>
牛蒡…10cm程度
茹で銀杏…4個
木耳…適量
(ほか、人参、むき栗、慈姑、椎茸など加えても)
麻の実…小さじ1

小麦粉…大さじ2
ごま油…適量
<味付け>
煎酒+おろし山葵/白醋(しらす)+山葵の針切り/青味噌田楽
※白醋とは、むき栗と豆腐を擂り潰して酢でのばしたもの。砂糖を溶かしても。
※青味噌とは、味噌をよく擂り、干した青菜の粉を混ぜたもの。

【作り⽅】
1. 木綿豆腐はしっかりと水切りし、擂り鉢で擂りつぶして葛粉を混ぜ込む。
2. 牛蒡は針切りに、茹で銀杏は半分に割り、木耳は水で戻して千切りにする。他の具材も細かく刻み、ごま油で炒める。
3. 2を1で包んで丸め、小麦粉をまぶしてごま油で揚げ、お好みの味付けでいただく。

※記事と写真の無断転載を禁じます

⾞ 浮代
(くるま うきよ)

時代小説家/江戸料理・文化研究家。
江戸時代の料理の研究、再現(1200種類以上)と、江戸文化に関する講演、NHK『チコちゃんに叱られる!』『美の壷』『知恵泉』等のTV出演や、TBSラジオのレギュラーも。著書に『免疫力を高める最強の浅漬け』(マキノ出版)『1日1杯の味噌汁が体を守る』(日経プレミアシリーズ)など多数。
小説『蔦重の教え』はベストセラーに。西武鉄道「52席の至福 江戸料理トレイン」料理監修。新刊『江戸っ子の食養生』(ワニブックスPLUS新書)発売中。
http://kurumaukiyo.com