和食STYLE

文化遺産にふさわしい店「この一品」 新・和食めぐり㊽日本橋蛎殻町 すぎたのさばの巻物

本連載は今回が最終回となる。最後に、私のお気に入り中のお気に入りの店、『日本橋蛎殻町 すぎた』を紹介したい。当代随一の鮨の名店で、予約が難しいことでも知られている。すぎたでは定番となっている「さばの巻物」が今回の一品だ。
しゃりのない海苔巻きは、酒のアテとして出されるもので、味わいの素晴らしさはもちろんのこと、見た目の美しさも際立つ圧倒的な存在となっている。

組み合わせの妙が織りなす
極上の一品を堪能する幸せ

日本橋蛎殻町 すぎた
東京都中央区日本橋蛎殻町1-33-6 ビューハイツ日本橋B1F
03-3669-3855

早いもので連載が始まって一年が経ち、今週が最終回となる。そこで満を持して私が敬愛してやまない頂点の店を紹介したい。『日本橋蛎殻町 すぎた』の名は鮨好きならば知らない人はいないだろう。私も、鮨の最高峰だと断言できる。

メインとなる握りに関しては、多くの人やメディアが詳細を伝えて惜しみない賛辞をこれでもかと贈っているので、今回の一品はあえて「さばの巻物」を選んだ。
使われているのは、脂のよく乗ったさばを〆たものと、大葉、あさつき、ガリ(しょうが)で、それを海苔で巻いている。材料自体は鮨ではありふれたものばかりだが、この組み合わせは『日本橋蛎殻町 すぎた』がオリジナルで、私は密かに「すぎたスペシャル」と呼んでいる。まさに黄金の方程式である。
よくある素材同士を絶妙のバランスで組み合わせるというだけで、極上の逸品へと昇華させているのだ。まるで魔法でもかけられたかのような体験したことのない美味しさにあふれ、味覚のほうから勝手に押し寄せてきて体の中に染み渡っていくのを感じることができるのである。

嬉しいのは、この絶品の「さばの巻物」が供されるのは、まだ全コースの序盤戦だというところである。
「よーし! これから本格的なにぎりのラインナップを堪能できる!」という期待感でいっぱいのところに、酒のアテとして提供されるので、毎回思わず笑顔になってしまう。季節によってはさばがイワシに変わることもあり、それは行ってみてからのお楽しみだ。

私とご主人の杉田さんとは、修業をされていた頃からの20年来の付き合いになる。当時から技術は素晴らしく一歩抜きんでた存在であった。夢中になって工夫と研鑽を続けられる姿に感銘を受けてきた。
そして、それ以上に感動させられるのが、当時も今も変わらない穏やかな人柄と柔らかい接客の物腰だ。最高級の鮨店と聞くと、敷居が高くどうしても緊張してしまう印象だが『日本橋蛎殻町 すぎた』では、心配無用である。誰が訪ねて行っても、変わらずに温かく迎えてくれる。

この連載の中では一番値段の張る高級店となるが、その対価を支払って余りある価値を得ることができるはずだ。私のとっておきの店をぜひ勝負和食として体験してもらいたい。

プロフィール
川原 秀仁(かわはらひでひと)

街のにぎわいを創生し、建築に様々な役割を与える「施設参謀」として日本全国を飛び回る。事業と建築、和食という一見異なるジャンルの中で、伝統に基づいた本物の技術に着目。無形文化遺産として登録された和食の普及にも公私にわたり努めている。株式会社山下 PMC 取締役会長。

https://www.ypmc.co.jp/