和食STYLE

文化遺産にふさわしい店「この一品」 新・和食めぐり㊼和食 おの寺の瀬つき鰺(あじ)の炊き込みご飯

大衆魚のイメージがある鰺(あじ)だが、脂ののった「瀬つき鰺」は身もふっくらとしていて味もよく、ブランド魚として珍重されている。それを一尾丸ごと炊き込みご飯にすれば、身だけではなく旨みも余すところなくいただくことができる。
日本料理の〆として、熱々のご飯と一緒に食べれば、和食の醍醐味を実感できるはずである。『和食 おの寺』は価格も良心的な店なので、ぜひ足を運んでみてほしい。

和食の良さを改めて実感できる
瀬つき鰺の炊き込みご飯

和食 おの寺
東京都新宿区神楽坂3-2 神楽坂越後屋ビル4F
03-3260-2066
https://www.washoku-onodera.com/

靴を脱いで上がる日本料理の店というと非常に敷居が高いイメージがある。まして、名店が立ち並ぶ神楽坂となると価格も気になるところだが、『和食 おの寺』は友人との集まりや女子会にぴったりな良心的な設定である。基本的には「季節を味わうおまかせコース」の一択だが、その中でも特にお薦めなのが「瀬つき鰺の炊き込みご飯」だ。
鰺は基本的に海流に乗って北上する回遊魚であるが、ごく稀に一部は瀬(天然礁)に住み着き、良質のエサをたっぷりと食べて、ふっくらと肉厚に育つ場合がある。
それを「瀬つき鰺」と呼び、私がいただいた山口県産のものは土地の名物になっていて、産地から急速冷凍されたものが直送されてくるそうだ。

旨みをたっぷりと蓄えた今が旬の鰺は、コースの〆に出てくる土鍋の炊き込みご飯に登場する。目の前で蓋を開けた途端に、出汁と鰺そのものの何ともいえないいい香りに包まれる。幸せな気持ちになる。中をのぞき込むと、開いた鰺と粒立ちしてキラキラと光る米が目に飛び込んできて、どんどん楽しくなってくる。
鰺の身をほぐして茶碗によそってもらい、あさつきをはらりと散らすところで幸せな気分は最高潮に!

鰺は家庭の食卓でもおなじみの食材だが、私はこの「瀬つき鰺の炊き込みご飯」で改めて美味しさの真髄を体感できた。口に含んだ鰺はほろほろっとほぐれ、ご飯とちょうどいい具合に混ざっていく。
鰺の旨みと甘み、そして出汁の味わいが、熱々のご飯一粒一粒に染み込んでいて、噛めば噛むほど独特の豊かな味わいが、口の中から体全体にまで拡がってゆく。食事をしているだけなのに極上の幸福感に浸ることができる。まさに和食の醍醐味といった感じだろうか。
一緒に出される赤だしの味噌汁も、炊き込みご飯との相性が絶妙で、どちらも止まらなくなってしまう。

コース全体が安心できるほっこりとした美味しさなので、和食の素晴らしさを改めて実感することができるだろう。ご主人の快活なお人柄もあり、店全体が温かい雰囲気で居心地は抜群。店はカウンターが10席と掘りごたつ式の個室がひとつなので、ぜひ予約をして、絶品の炊き込みご飯を味わってほしい。

プロフィール
川原 秀仁(かわはらひでひと)

街のにぎわいを創生し、建築に様々な役割を与える「施設参謀」として日本全国を飛び回る。事業と建築、和食という一見異なるジャンルの中で、伝統に基づいた本物の技術に着目。無形文化遺産として登録された和食の普及にも公私にわたり努めている。株式会社山下 PMC 取締役会長。

https://www.ypmc.co.jp/