和食STYLE

文化遺産にふさわしい店「この一品」 新・和食めぐり㊺ひみつ堂のひみつのいちごみるく

たっぷりのふわふわ天然氷のかき氷に、滴(したた)り落ちるほどフルーツの蜜をかけて、大人気となった『ひみつ堂』。
平成に始まったかき氷ブームをけん引した店で、今では一年を通じてファンが訪れるようになった。『ひみつ堂』の名前の由来は氷蜜(ひみつ)で、フルーツから作った自家製手作り蜜が特徴。
ふわふわ食感にこだわり、今でも手動で氷を削り続ける手間ひまかけた珠玉の一品である。

かき氷をワンランク上のスイーツに変えた
天然氷と手作り蜜にこだわった店

ひみつ堂
東京都台東区谷中3-11-18
03-3824-4132
http://himitsudo.com/

赤い格子扉が目印になっている大人気のかき氷店で、谷根千(谷中、根津、千駄木)らしいノスタルジックな雰囲気の中に溶け込んでいる『ひみつ堂』。創業から10年ほどで名店と呼ばれるほどになり、夏には何時間も待つ長い長い行列ができていたが、最近は整理券が出るようになったので、近隣を散策しながら待ち時間を楽しめるようになった。

たかがかき氷、と侮ってはいけない。『ひみつ堂』では有名な日光の三ツ星氷室(ひむろ)の天然氷を使用。
その極上の氷を、それを今ではディスプレイとして見かけることのほうが多い手動式氷削機を使って、ひたすらクルクルクルクルと回しかいていく。作業はふたりがかりで、ひとりは氷削機を操り、ひとりが盛り付け担当となり手際のよい流れ作業でかき氷が作られていく。
ボタンひとつで簡単に操作できる機械を使わない理由は、独特のふわふわ食感を作り出すため。作り手の体力的な負担は相当なものだが、『ひみつ堂』ではこの手動式にこだわりを持ち続けている。

そして、氷の上にたっぷりとかけられているのは、フルーツと砂糖だけを使った完全無添加の自家製手作り蜜で、決して市販のシロップを使わないのも『ひみつ堂』のポリシーである。フルーツをそのまま食べる以上に美味しい手作り蜜が、氷から滴るほどかけてあるのだから、美味しくないわけがない!

そんな『ひみつ堂』のかき氷は何を食べても美味しいが、一番のお薦めは定番商品のひとつ「ひみついちごみるく」である。いちごの赤と練乳の白のコントラストが、見た目にも心を躍らせる一品で、口に入れるとふわふわ氷が一瞬で溶けていく。
空気をたくさん含んでいるせいか、冷たいものを食べたときに襲われるキーンとした頭痛も感じない。いちごが持つほどよい酸味と練乳のやさしい甘みが絶妙で、一口食べ進むたびに「快感! 感動!」である。

かき氷を食べ終えて赤い格子扉から外に出ると、昭和の晩夏の昼下がり、高く青い空とそこにそびえる入道雲の映像が脳裏によみがえってくる。いつ食べても、昭和のノスタルジーにタイムスリップさせてくれる『ひみつ堂』のかき氷は、悠久に残したい日本文化のひとつ、と言えるのではないだろうか。

プロフィール
川原 秀仁(かわはらひでひと)

街のにぎわいを創生し、建築に様々な役割を与える「施設参謀」として日本全国を飛び回る。事業と建築、和食という一見異なるジャンルの中で、伝統に基づいた本物の技術に着目。無形文化遺産として登録された和食の普及にも公私にわたり努めている。株式会社山下 PMC 取締役会長。

https://www.ypmc.co.jp/