和食STYLE

文化遺産にふさわしい店「この一品」 新・和食めぐり㊹鮨 つぼみのトロたく巻き

一流店で修業を積んだご主人が、中目黒に開いた店で高級鮨店にもひけを取らない素晴らしい味わいを生み出している。もちろん人気店ではあるが、今ならば比較的予約が取りやすいので、挑戦してみる価値のある店のひとつである。コース料理の最後に出される「トロたく巻き」は素朴なイメージとは裏腹に、計算し尽くされたいい塩梅のバランスで、〆にふさわしい主役級の美味しさが楽しめる。

一流の技を身につけて
大輪の花へと成長する店

鮨 つぼみ
東京都目黒区東山1-21-26 QG東山1F
03-6451-0903
http://www.sushi-tsubomi.jp/

中目黒にある、これからさらに王道を極めていくだろうと私が信じている鮨屋さんが『鮨 つぼみ』である。ご主人は、日本が世界に誇る名店『鮨 さいとう』で修業をされていた方で、師匠である齋藤さんが『鮨 つぼみ』のプロデュースを行い、魚の仕入れも同じと聞くと、それだけでも正統派の流れをしっかりと受け継いでいることがわかるだろう。

メニューはコース料理のみで、旬を存分に味わえる、間違いのない料理ばかりだが、特にお薦めしたい一品は「トロたく巻き」である。まぐろのトロの部分をたっぷりとたたきにして、つぶ状のたくあんを少々含めて、海苔で軽く手巻きにして手渡しで供される。

口に含むと、まず海苔のパリパリとした食感と香りがすぐにやってくる。それを楽しんでいると、さらに甘く柔らかい旨みととろけるような感覚のトロ、絶妙なバランスのシャリ、全体を締める細かく刻まれたたくあんの三拍子揃った完璧な世界観を堪能できる。特にシャリは寿司ネタとの相性が抜群。

「トロたく巻き」と聞くと脇役のイメージを持つかもしれないが、コース料理の最後に出てくる一品で、それだけにご主人の気持ちのこもった自信作なのではないかと推測している。
全体を軽く巻いてふわふわ感を出しているこの「トロたく巻き」は、食べたときの心地よさが素晴らしく、間違いなく大トリの主役、大満足で食事を終えることができる。
店はカウンターのみ10席で、隅々までご主人の目が行き届いている。しかし、席数が少ないので早めの予約が必要である。予約は直接電話をするか、インターネットの予約サイトからでも可能なので、こまめにサイトをチェックしていればチャンスは十分にあるはず。値段は決して安いとまではいえないが、高級鮨店と比べても味やサービスに遜色はなく、コストパフォーマンスは非常に高い。そんな店が中目黒にあるというのが、また素晴らしく、嬉しい。

『鮨 つぼみ』は今でも十分に素晴らしいが、きっと将来はもっともっと大きな花を咲かせる店になるだろうと私は確信している。

プロフィール
川原 秀仁(かわはらひでひと)

街のにぎわいを創生し、建築に様々な役割を与える「施設参謀」として日本全国を飛び回る。事業と建築、和食という一見異なるジャンルの中で、伝統に基づいた本物の技術に着目。無形文化遺産として登録された和食の普及にも公私にわたり努めている。株式会社山下 PMC 取締役会長。

https://www.ypmc.co.jp/