和食STYLE

豆腐百珍のすべて 14 尋常品 すり流し豆腐

時代小説家/江戸料理・文化研究家 ⾞ 浮代(くるま うきよ)



【⾖腐百珍とは】
天明2(1782)年5月に刊行され、大ベストセラーになった江戸時代のレシピ本。豆腐料理だけを100品、6段階に分けて紹介するという斬新さで話題に。大根、卵、鯛、蒟蒻といった百珍ブームのきかっけとなり、『豆腐百珍続篇』『豆腐百珍餘録』も刊行された。

『豆腐百珍』の著者・醒狂道人何必醇(せいきょうどうじんかひつじゅん)の正体とされる、曾谷学川(がくせん)。山城国から京に上り、「印聖」と呼ばれるほど人気を博した高芙蓉(こうふよう)の弟子となり、古体派の篆刻を学びます。

高芙蓉には多くの弟子がいましたが、中でも学川は腕が立ち、高芙蓉の右腕となりました。諱(いみな)が「之唯(これただ)」だったため、中国風に「曽之唯(そうしい)」の名を与えられます。作風は師匠にそっくりで「芙蓉の影子」と呼ばれるほどでした。

ところがそれが仇となり、学川は師匠の名で贋作を制作し、販売し始めたのです。同じ印章でも、高名な高芙蓉が彫ったものと、高弟の曽之唯が彫ったものでは、価格に雲泥の差があります。

かの葛飾北斎の娘で、葛飾応為(おうい)の画号を持つお栄が、北斎の名で多くの作品を描いたのは、やはり「そのほうが高く売れるから」で、こちらはむしろ北斎の策略で合意の上。学川の場合は高芙蓉にバレて咎められ、逃げるように京を去ることになりました。(続く)

さて、14番のすり流し豆腐は、滑らかになるまで摺った豆腐に葛粉を練り合わせて、温めた味噌汁に浮かべて煮ることで、フワッと滑らかな舌触りの豆腐が楽しめる一品です。フードプロセッサーがあれば、短時間で簡単に作れます。

■すり流し豆腐レシピ
【材料】
絹ごし豆腐…1/2丁
葛粉(片栗粉でも可)…大さじ2

味噌汁…適量
薬味(胡椒、七味など)…少々

【作り⽅】
1. 絹ごし豆腐を裏ごしし、摺り鉢で摺りながら葛粉とよく混ぜ合わせる
2. 沸騰寸前の味噌汁に1を流し入れ、中火で2分ほど煮る。椀に入れ、好みの薬味をかける。

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⾞ 浮代
(くるま うきよ)

時代小説家/江戸料理・文化研究家。
企業内グラフィックデザイナーを経て、故・新藤兼人監督に師事し、シナリオを学ぶ。現在は、江戸時代の料理の研究、再現(1000種類以上)と、江戸文化に関する講演、NHK『美の壷』他のTV出演や、TBSラジオのレギュラーも。
著書に『免疫力を高める最強の浅漬け』(マキノ出版)『1日1杯の味噌汁が体を守る』(日経プレミアシリーズ)など多数。小説『蔦重の教え』はベストセラーに。西武鉄道「52席の至福 江戸料理トレイン」料理監修。新刊『江戸っ子の食養生』(ワニブックスPLUS新書)発売中。。
http://kurumaukiyo.com