和食STYLE

文化遺産にふさわしい店「この一品」 新・和食めぐり㊶御茶ノ水 小川軒の黒毛和牛ハンバーグステーキ

ハンバーグの誕生にはいくつかの説があるが、欧米から日本にレシピが渡ってきたのは間違いなさそうだ。
現在に至るまでに、日本のハンバーグは独自の進化を遂げた。ご飯のおかずとして白米と合わせることを前提として、日本ならではの料理へと進化したのだ。『御茶ノ水 小川軒』は明治時代からの伝統を守りつつ、上質な素材を使った極上の「黒毛和牛ハンバーグステーキ」を供している。

父から受け継いだレシピを守り
誰からも愛される看板メニューへと成長

御茶ノ水 小川軒
東京都文京区湯島1-9-3
03-5802-5420
https://ogawaken.com/

『御茶ノ水 小川軒』と聞くと、手土産の定番でもある洋菓子の「レイズンウイッチ」を思い浮かべる人が多いかもしれない。しかし大元は、明治時代後期、初代が汐留に店を構えた洋風レストランをルーツとしている。よって今でも伝統をしっかりと受け継いだ料理が供される。中でも絶対に食べてもらいたい、この一品は「黒毛和牛ハンバーグステーキ」である。

一般的に、ハンバーグには機械でミンチにした肉が使われる。しかし『御茶ノ水 小川軒』ではチョップ・ド・ビーフ、つまり包丁で叩いて切った肉だけが使われている。しかも、黒毛和牛100%のみで作られているのである! これは初代から受け継いできた伝統で、手切りにされた牛肉は細かくなりすぎず、肉の食感と旨みを感じられる大きさを残している。それで成形されたハンバーグは、ギュッと固くなり過ぎず、ふんわりと空気を抱え込んでまとまる。食べると、ちょうどいい具合に口の中でほぐれるのがわかるはずだ。

肉本来の旨みを最大限活かすように、ソテーした玉ねぎを加えるだけでつなぎは一切使っていない。それだけでも間違いのない美味しさだが、10日間煮込んだダークブラウン色のデミグラスソースを香ばしく焦げ目のついた表面にたっぷりとかけることで、『御茶ノ水 小川軒』でしか食べられない極上の「黒毛和牛ハンバーグステーキ」が完成する。

ナイフを入れてみると、ハンバーグの断面からは「どうぞ、食べてください」とばかりに澄んだ美しい肉汁があふれ出てくる。熱々を口に頬張ると、肉の旨み、玉ねぎの甘味、デミグラスソースの酸味とコクが、それぞれに美味しさを訴えかけてくる。それらが三味一体となったハンバーグを白米と一緒に食べるのが私にとって至福のときで、その美味しさに毎回悩殺されてしまう。他に雑穀米やパンをオーダーすることもできるが、白米は必然のカップルのような相性の良さがある。

明治時代以降、日本の食卓に合わせて独自の進化を遂げ、今ではすっかり定番メニューとなったハンバーグ。『御茶ノ水 小川軒』の「黒毛和牛ハンバーグステーキ」は、一度食べると思い出になるだろう。そして、きっとまた食べたくなる一品になると願っている。

プロフィール
川原 秀仁(かわはらひでひと)

街のにぎわいを創生し、建築に様々な役割を与える「施設参謀」として日本全国を飛び回る。事業と建築、和食という一見異なるジャンルの中で、伝統に基づいた本物の技術に着目。無形文化遺産として登録された和食の普及にも公私にわたり努めている。株式会社山下 PMC 取締役会長。

https://www.ypmc.co.jp/