和食STYLE

豆腐百珍のすべて 11 尋常品 再炙田楽

時代小説家/江戸料理・文化研究家 ⾞ 浮代(くるま うきよ)



【⾖腐百珍とは】
天明2(1782)年5月に刊行され、大ベストセラーになった江戸時代のレシピ本。豆腐料理だけを100品、6段階に分けて紹介するという斬新さで話題に。大根、卵、鯛、蒟蒻といった百珍ブームのきかっけとなり、『豆腐百珍続篇』『豆腐百珍餘録』も刊行された。

解説の必要な料理が相次いだため、なかなか続きが書けなかったのですが、今回は『豆腐百珍』の著者・醒狂道人何必醇の正体とされる、曾谷学川のその後の人生について、紹介して参ります。

元文3年(1738年)に「長岡京」のある山城国で生まれた学川は、篆刻家としての修行の地を、京に求めます。

師事したのは、学川より16歳上の高芙蓉(こうふよう)。祖父が水戸の徳川光圀公(黄門様)の土蔵番をしていたのですが、クビになって一家は甲斐国へ移り住みます。
父は医者となり、甲斐で生まれた高芙蓉も医術を学びますが、自分には向いていないと20歳の頃京に遊学。池大雅や円山応挙、木村蒹葭堂ら、多くの文人墨客との交流を持ち、儒学や山水画を極めますが、最も才能を発揮したのが篆刻でした。

当時の日本では、明の刻風が主流だったのですが、秦や漢の時代の古印を研究して復興させ、格調高い作風で篆刻の世界を塗り替え、「印聖(いんせい)」と呼ばれるほどの不動の地位を築きました。

若き学川は、そんな高芙蓉の高弟となったのです。(続く)

さて、今回ご紹介する11番の『再炙(ふたゝび)田楽』。調理法を見ると「[七十九] 阿漕でんがくの下(ところ)に出たり」とあり、不親切。79番を読めば、豆腐を2度炙(あぶ)ることからついた料理名だとわかります。「再び」にかけて「炙(び)」の字を当てるあたりが洒落ています。
最初は醤油を塗って炙り、乾かしてから味噌を塗ってまた炙る。いかにも酒の肴に合いそうな一品です。

■再炙田楽レシピ
【材料】
木綿豆腐…1/2丁
醤油…大さじ3
味噌…大さじ3
味醂…大さじ1

【作り⽅】
1. 豆腐は水切りして長方形に切り、串を打つ。
2. 1の全面に醤油を塗って炙り、少し乾かしておく。
3. 味噌と味醂をよく練り合わせて2の片面に塗り、再び炙る(焼き過ぎに注意)。お好みで胡麻や芥子の実、柚子皮などをかける。

※豆腐の水切りは、豆腐の上にまな板と重しを乗せ、1時間ほどかけてゆっくりと水分を抜くと綺麗に仕上がります。時間のない場合は、豆腐をキッチンペーパー等でくるみ、割り箸などを敷いて皿から浮かせ、電子レンジに3分かければOKです。

※記事と写真の無断転載を禁じます

⾞ 浮代
(くるま うきよ)

時代小説家/江戸料理・文化研究家。
企業内グラフィックデザイナーを経て、故・新藤兼人監督に師事し、シナリオを学ぶ。現在は、江戸時代の料理の研究、再現(1000種類以上)と、江戸文化に関する講演、NHK『美の壷』他のTV出演や、TBSラジオのレギュラーも。
著書に『免疫力を高める最強の浅漬け』(マキノ出版)『1日1杯の味噌汁が体を守る』(日経プレミアシリーズ)など多数。小説『蔦重の教え』はベストセラーに。西武鉄道「52席の至福 江戸料理トレイン」料理監修。新刊『江戸っ子の食養生』(ワニブックスPLUS新書)発売中。。
http://kurumaukiyo.com