和食STYLE

文化遺産にふさわしい店「この一品」 新・和食めぐり㊵浪花家総本店のたい焼き

「たい焼き」は日本人であれば誰でも一度は食べたことがある、馴染み深く、手ごろな甘味である。最初に作られたのは、明治時代の初めころだと言われている。その頃から変わらぬ味を守り続けているのが麻布十番にある『浪花家総本店』である。一個ずつ型で焼き上げる昔ながらのスタイルで、バリっと焼き上げた皮とほどよい甘さのつぶ餡は、まさにベストマッチ。今でも行列ができる人気店である。

変わらぬ味を守り続けて
東京を代表するたい焼き店のひとつ

浪花家総本店
東京都港区麻布十番1-8-14
03-3583-4975

今回はこれまでと趣向を変えて、甘味どころを紹介したいと思う。東京には数多くの「たい焼き」店があるが、その中でも御三家と呼ばれる人気店がある。そのひとつが『浪花家総本店』で、創業は明治42年という100年以上続く老舗である。近隣に各国大使館が立ち並ぶ都心の一等地、麻布十番に店を構え、東京メトロの駅からも徒歩2~3分という好立地になる。『浪花家総本店』では一個ずつ独立した型を使って手焼きする、いわゆる「天然もの」が食べられる。
「天然もの」は、「たい焼き」が作られ始めた頃から受け継がれてきたスタイルで「一丁焼き」とも呼ばれ、火加減をひとつずつ見ながら焼き上げられるので「たい焼き」好きの人からは絶大な人気を誇る。昭和のヒットソング『およげ! たいやきくん』のモデルになった店としても知られている。

『浪花家総本店』の「たい焼き」は、薄い皮をバリっと焼き上げ、尻尾の先までぎっしりと餡が詰まっている。焼き上げる様子は小気味のいいリズムでテンポよく、眺めていると昔ながらの光景に昭和の少年期を思い出してしまう。
餡は、ほどよい甘さのつぶ餡で、甘さを引き立てるための塩加減のバランスも絶妙である。

「天然もの」の「たい焼き」は、どうしても焼き上げるのに時間がかかるため、『浪花家総本店』でも行列ができているのをよく見かける。そんなときは2階にあるカフェ『ナニワヤ・カフェ』でゆっくりと待つのもお薦めだ。ドリンクがセットになった「甘味お飲み物セット」をオーダーすれば、焼き立ての「たい焼き」が食べられる。ドリンクはほうじ茶やコーヒー、甘酒なども選べるが、私のお薦めは後味がすっきりとした煎茶である。

実は先日、『浪花家総本店』の近くで会食があった。少し早く着いてしまったので、近くを散策しているうちに「たい焼き」の甘い香りに誘われて、ついつい立ち寄ってしまった。カフェに入り、会食前だというのに自分を抑えきれず「たい焼き」2個と煎茶をオーダー。落ち着いた空間で過ごすひと時は、まさに至福。食べ終わってしばらくは余韻にひたり、立ち上がりたくないとさえ思ったほどである。
一度立ち寄ってみると、『浪花家総本店』の人気の秘密がきっとわかるだろう。

プロフィール
川原 秀仁(かわはらひでひと)

街のにぎわいを創生し、建築に様々な役割を与える「施設参謀」として日本全国を飛び回る。事業と建築、和食という一見異なるジャンルの中で、伝統に基づいた本物の技術に着目。無形文化遺産として登録された和食の普及にも公私にわたり努めている。株式会社山下 PMC 取締役会長。

https://www.ypmc.co.jp/