和食STYLE

文化遺産にふさわしい店「この一品」 新・和食めぐり㊲炭火焼肉 なかはらの幻のタン

大切な日に気合を入れて訪れたい『炭火焼肉 なかはら』は、長年肉好きを熱狂させている名店のひとつである。中でも3つの異なる部位を盛り合わせた「幻のタン」は、カッティング方法にこだわって様々な美味しさと個性を引き出し、「タン」の奥深さを知ることができる一品。旨みだけでなく、食感や弾力までもが計算し尽くされ、何度でも足を運びたいと思わせてくれる。

タンを魅力と奥深さに出会える
まさに究極の味わい

炭火焼肉 なかはら
東京都千代田区六番町4-3 GEMS市ヶ谷9F
03-6261-2987
https://sumibiyakinikunakahara.com

『炭火焼肉 なかはら』は、仕事・プライベートを問わず「勝負の日!」に活用してほしい高級焼き肉店である。別店舗名で営業を行っていた頃から名店として知られていたが、市ヶ谷にリニューアルオープンして以来、立地が良くなったこともあり、ますます人気に拍車がかかった。

メニューはスタンダード、スタンダードプラス、スペシャルの3コース。いずれも黒毛和牛のメスのみを使用していて、量は異なるが肉質には差がない。まずはスタンダードを注文して、物足りなさを感じる人は次回からオーダーを変更してみてもいいかもしれない。
すべての料理が絶品だが、あえて『炭火焼肉 なかはら』ならではの一品を推すならば、全コースの最初に味わえる、まるで印象深い前奏曲のような「幻のタン」である。「幻のタン」は、3種類の部位が一番美味しく食べられるように切り分けられている。

「タン元」は名前の通り根元の部分で、一般的なタンのイメージに近いが厚みが違う。その日に提供する食材に合わせて、店主がミリ単位の調整をしながら肉厚に切るためプリプリとした食感で、柔らかくジューシーに仕上がっている。一口食べると肉汁があふれ出し、今までに食したタンとはまるで別物だとわかるだろう。「タン先」は、舌の先端の部分になる。タン本来の旨味と弾力を楽しむために、ごくごく薄くカットされているのが特徴的である。
そして、この店以外ではなかなか味わうことのできない「タンゲタ」が絶品だ。舌の根元の下側の部位で、筋が多いため敬遠する店も多いようだが、コリコリとした弾力がクセになる美味しさ。噛めば噛むほど旨みがポンプのようにあふれ出してくる感覚に陥るほどである。このまったく食感も個性も異なる3種類の「幻のタン」が食べられるとあって、焼き肉好きからは究極の店として知られてきたのだ。

「幻のタン」が前奏曲とするならば、コース料理全体はひとつの組曲のようにバランスよく構成されていて、時間を忘れて夢中になってしまう。肉はすべてスタッフの方が焼いてくれるので、それをゆっくりと眺めながら一番美味しい状態の肉を頬張ることができる。
確かに値は多少張るが、『炭火焼肉 なかはら』でしか出会えない繊細で究極の味わいを一度は楽しんでみてほしい。

プロフィール
川原 秀仁(かわはらひでひと)

街のにぎわいを創生し、建築に様々な役割を与える「施設参謀」として日本全国を飛び回る。事業と建築、和食という一見異なるジャンルの中で、伝統に基づいた本物の技術に着目。無形文化遺産として登録された和食の普及にも公私にわたり努めている。株式会社山下 PMC 取締役会長。

https://www.ypmc.co.jp/