和食STYLE

文化遺産にふさわしい店「この一品」 新・和食めぐり㊱てんぷら 近藤のさつま芋の天ぷら

契約農家から取り寄せた紅あずまを30分ほどかけて揚げた後、10分ほどペーパータオルで包んで蒸らし、中までじっくりと火を通した「さつま芋の天ぷら」は名店『てんぷら 近藤』の看板料理である。
焼き芋から着想を得て、さつま芋のフォルムを活かして揚げているので食べ応えも満点。さつま芋の甘みを存分に引き立てつつ、表面のパリパリとした食感も楽しめる珠玉の一品だ。

焼き芋の味わいを
名店の技で凌駕した一品

てんぷら 近藤
東京都中央区銀座5-5-13 坂口ビル9F
03-5568-0923
https://tempura-kondo.com/

名店と呼ばれる店はいくつかあるが『てんぷら 近藤』は、「天ぷらの雄」と表現しても間違いないだろう。ご主人は、日本中に熱心なファンを持つだけではなく、海外にも天ぷら料理を広めた立役者として知られている。
今でも料理にかけるご主人の情熱は衰えることなく、全国から集められた選りすぐりの食材を使った四季折々の天ぷらを食べることができる。

『てんぷら 近藤』は、旬の野菜をふんだんに取り入れた嚆矢の店で知られてきた。供される野菜は、ご主人自ら生産地まで出向いて試食し、納得したもののみが使われる。どれを食べても美味しいが、どうしても外せない一品として「さつま芋の天ぷら」を紹介したい。
まず、注意しなければならないのは、「さつま芋の天ぷら」は昼夜共にコースの中には組み込まれていないことである。オーダーをしてから提供されるまでに30分以上要するので、追加ではなく最初に頼んでおくことが必要だ。

他の天ぷらを味わいながら、のんびり待っていると、頃合いを見計らって「さつま芋の天ぷら」が出てくる。直径10センチ近くはある円柱型のさつま芋の大きさに、まずは圧倒されるだろう。
誰もが大好きな焼き芋を超える料理を作りたいというアイデアから生まれた一品だと聞き、そのフォルムに納得する。

さつま芋にまとわれた衣は、これ以上は無理だろうというほど薄くつけられていて、油っこさはまったく感じないうえに、食べている途中で外れることも絶対にない。
表面は少し焦げ目がつくくらいパリパリに揚げられている。しかも30分かけて揚げられた後、10分ペーパータオルに包んで蒸されているので、芯までじっくりと熱が通っていて中はホクホクと甘い。実は、私もさつま芋ならば焼き芋が一番だと信じていたので、この料理を食べて以来、その考えは見事に覆された。脱帽である。

使っているさつま芋は千葉県産の紅あずまで、契約農家から直接仕入れているもの。9月から収穫されたさつま芋は専用の室(むろ)で2~3か月寝かせて、糖度を上げている。そのため、食べられるのは11月から7月頃まで。3か月ではあるが、食べられない時期もあるので、ぜひ季節を逃さずに行ってほしい。
ひとつ頼むとかなりボリュームがあるので、しっかりとお腹を空けておくか、シェアを。

プロフィール
川原 秀仁(かわはらひでひと)

街のにぎわいを創生し、建築に様々な役割を与える「施設参謀」として日本全国を飛び回る。事業と建築、和食という一見異なるジャンルの中で、伝統に基づいた本物の技術に着目。無形文化遺産として登録された和食の普及にも公私にわたり努めている。株式会社山下 PMC 取締役会長。

https://www.ypmc.co.jp/