和食STYLE

文化遺産にふさわしい店「この一品」 新・和食めぐり㉝四季の味 ふじ芳のうずら鍋

『四季の味 ふじ芳』は、日本ではあまり見かけない希少なうずら肉をたっぷり食べさせてくれる店である。うずら肉はひな鳥と合わせてミンチにして、それを亀の甲羅のように筋目を入れて盛り付けているので、見た目のインパクトも抜群である。
淡白だが味わいの深いうずら肉が際立つよう、シンプルなかつお出汁で食べる「うずら鍋」はしみじみと美味しい一品だ。まだまだ肌寒い今の時期に、ぜひ食べてもらいたい。

野性味あふれるうずら肉を
たっぷりと食べさせてくれる老舗店

四季の味 ふじ芳
東京都墨田区緑1-15-9
03-3631-0408
https://shikinoaji-fujiyoshi.jp/

ヨーロッパや北南米、アジア諸国まで、うずら肉は比較的世界中で食べられている食材のひとつだ。しかし、日本ではうずらの卵はよく見かけるが、肉はあまり流通していない。
昔は美味しい野鳥として知られていたが、うずらの狩猟は現在禁止されているので、そのあたりに理由があるのかもしれない。

そんな、今ではすっかり希少な食材となってしまったうずら肉をたっぷりと食べさせてくれる店がある。
両国にある『四季の味 ふじ芳』だ。浅草橋にあった以前の店舗から数えると約40年続いている人気の老舗店である。『四季の味 ふじ芳』の「うずら鍋」はたっぷりのうずら肉とひな鳥のミンチを使用している。
まるで亀の甲羅のように規則正しく筋目の入ったミンチ肉が山盛りで供されるので、まずは、その見た目の迫力に圧倒されるはずだ。

どうやって鍋を作ればいいのかと悩まなくても大丈夫。鍋奉行は女将さんがやってくれるので、お酒でもゆっくりと飲みながら手さばきを眺めているだけで極上の「うずら鍋」が完成する。
うずら肉のミンチは、つなぎを使っていないので、手慣れた人がやらないと鍋の中でばらばらにほどけてしまうが、女将さんはちょうどいい量を摘まんで、ちぎるようにして引きはがし鍋の中に入れていく。きれいに丸めるようなことをしないのは、出汁をしみ込ませるためのコツだと聞く。

うずら肉は、脂身が少ないため鶏肉よりもあっさりとしているが、味わいには言いようのない深みとパンチ力がある。そして、骨ごとミンチになっているので、食べると骨と軟骨のプチプチ、パリパリした食感も楽しい。うずら肉の味わいを邪魔しないよう、シンプルかつ丁寧に引かれたほんのり甘みのある出汁が使われていて、肉の旨みと合わさると五臓六腑に染み渡る美味しさである。

「うずら鍋」はコースにするとボリュームたっぷりなので、鍋だけをオーダーして、その他は好きな一品料理を頼むのがお薦め。どの料理も店主が丁寧な仕事をしているので、間違いはない。
〆に雑炊をお願いするのも忘れてはいけない。旨みをたっぷりと含んだ出汁をベースに、ゆずと三つ葉で風味づけをした雑炊で、きっとお腹も心も満たされるだろう。

プロフィール
川原 秀仁(かわはらひでひと)

街のにぎわいを創生し、建築に様々な役割を与える「施設参謀」として日本全国を飛び回る。事業と建築、和食という一見異なるジャンルの中で、伝統に基づいた本物の技術に着目。無形文化遺産として登録された和食の普及にも公私にわたり努めている。株式会社山下 PMC 取締役会長。

https://www.ypmc.co.jp/