和食STYLE

文化遺産にふさわしい店「この一品」 新・和食めぐり㉗ふぐ牧野の毛蟹大根鍋

『ふぐ牧野』は、名前の通りふぐの専門店なのだが、名物となっているのは活きた毛蟹を捌いて使う「毛蟹大根鍋」だ。
鍋の主役は白味噌ベースに毛蟹のエキスとバターのコクがたっぷりとしみ込んだ大根で、一度食べたら忘れられない味わいである。人気店なので、予約を取るならば早めに。
運がよければ、キャンセルの出た直近の日が取れることもあるので、あきらめずに、まずは電話を。

活きた毛蟹だからこそ美味しい
シンプルかつ究極の絶品鍋

ふぐ牧野
東京都台東区松が谷3-8-1
03-3844-6659

今回は、東京・稲荷町にある下町の予約困難店を紹介したい。店の目印となるのは大きな赤ちょうちんで、地下鉄の駅から歩いてくると、ちょうどいい目印になっている。
『ふぐ牧野』は、その名に「ふぐ」とついている通り、ふぐの専門店だが、名物は「毛蟹大根鍋」である。もちろん、刺に煮こごり、焼き、唐揚げ…と続いて最後に鍋とする、ふぐのフルコースも至福ではあるが、せっかくこの店に来たのならば「毛蟹大根鍋」を味わってほしい。
名前の通り、一杯分丸ごとの毛蟹と拍子木切りされた大根が入った鍋で、初めての方にはヴィジュアルのインパクトも十分な一品だ。鍋に入っているのは毛蟹と大根、バター、鷹の爪のみというシンプルさで、素材の味わいがダイレクトに伝わってくる。

活きたままの毛蟹を丸ごと捌いて白味噌ベースの鍋に入れるので、スープには毛蟹のエキスがたっぷりと染み出る。ボリュームたっぷりのぷりぷりとした食感の毛蟹が美味しいのはもちろんだが、この鍋の本当の主役は何といっても大根だ。
あっさりとした大根に白味噌とバター、毛蟹の旨みのエキスがすべて含まれていて、一口食べると箸が止まらなくなる。まさに比類なき味わいとはこのことで、生涯初めての味覚に出会えるに違いない。オーダーのコツはただひとつ。
最初から「大根マシマシ」でたっぷりの大根を入れてもらうことである。

毛蟹と大根を十分に味わったら、シメはご飯と卵を入れた雑炊にする。この雑炊が、また、たまらなく美味しい。すべての旨みを凝縮して、個人的には日本一美味しい雑炊ではないかと思っているほど。私は雑炊派だが、シメをラーメンにすることもでき、こちらも人気メニューである。

『ふぐ牧野』へ伺うたびに、そっと周囲を見回すのだが、ほとんどのお客さんが「毛蟹大根鍋」を食べている。私も年に一度は食べないと落ち着かないのだが、遅くても3か月前には予約の電話が必須だ。年末だと半年前には予約が埋まってしまう日もあると聞く。今シーズンのうちに食べてみたいという人は、今すぐ電話を!

プロフィール
川原 秀仁(かわはらひでひと)

街のにぎわいを創生し、建築に様々な役割を与える「施設参謀」として日本全国を飛び回る。事業と建築、和食という一見異なるジャンルの中で、伝統に基づいた本物の技術に着目。無形文化遺産として登録された和食の普及にも公私にわたり努めている。株式会社山下 PMC 代表取締役社長。

https://www.ypmc.co.jp/