和食STYLE

文化遺産にふさわしい店「この一品」 新・和食めぐり㉑喰善 あべの三種のご飯

日本人の主食として日常的に食べられている白米のご飯。当たり前すぎる食材だからこそ、その美味しさを実感することは少ないものだ。『喰善 あべ』は繊細な懐石料理が食べられる店だが、“おくどさん”と呼ばれる大きなかまどで炊いたご飯の美味しさも秀逸だ。
今回紹介する「三種のご飯」以外にも、季節ごとの炊き込みご飯などのバリエーションが豊富で、何度訪れても感動が薄れることはない。

日本人に生まれてよかったと実感できる
箸の止まらない絶品ご飯の日本料理店

喰善 あべ
東京都中央区銀座5-6-10 都ビル4F
03-3572-4855

銀座には世界中の美食が集まっている。そんな銀座のほぼど真ん中に店を構えるのが、今回紹介する『喰善 あべ』である。雑居ビルを上がり格子戸を開けると、まず大きなかまどが並んでいるのが目に飛び込んでくる。
ご主人は京都で修業をされた方なので、“おくどさん”と呼ぶべきか。店内はL字カウンターのみの11席で、ご主人の目が隅々にまで行き届いているから親しい人との小さな集まりの忘年会、新年会にも最適な広さだ。

八寸から始まる懐石料理のコースは、いつ伺っても旬の食材が盛り込まれた料理で、目にも鮮やかで洗練されている。
その中でも、この一品を選ぶとするならば「三種のご飯」をお薦めしたい。
日本人にとって主食である白米を炊いたご飯は、当たり前のものであり、なかなか特別感を感じることはないかもしれない。しかし、『喰善 あべ』でいただく「三種のご飯」は日常を超えた特別な一品だと強調したい。

まず、三種とはどんなものかを紹介する。最初に供されるのは、煮えばなの状態のご飯である。通常、ご飯は炊いた後に、しばらく蒸らして米の中に水分を閉じ込めていく。
煮えばなは、その蒸らす直前の炊きあがったばかりの状態で、米からご飯になった瞬間のものである。
パスタに例えるならばアルデンテと同じで、ほんのりと米の芯を感じる。米は水分をまとってクリスタルのように輝き、本来の旨みと甘みを味わうことができる。“おくどさん”ならではの贅沢だ。
二番目に食べられるのは、いわゆる白いご飯だ。炊き立てのつやつやご飯はそのまま食べても美味しいが、めざしとお新香、明太子が添えられていて、箸を進めるごとに日本人でよかったと至上の喜びを感じる。そして最後に出てくるのが、お焦げが香ばしいご飯に生卵を割り入れた究極ともいえる卵かけご飯である。

銀座には多くの和食店があるが、ご飯だけで奥深い日本料理の世界を表現できる店はないだろう。それまでの料理の数々が「三種のご飯」までの序章だったかのような圧倒的な存在感である。気軽に通うことのできる価格帯ではないが、ぜひ一度はご飯だけで感動できる『喰善 あべ』を訪れてほしい。

プロフィール
川原 秀仁(かわはらひでひと)

街のにぎわいを創生し、建築に様々な役割を与える「施設参謀」として日本全国を飛び回る。事業と建築、和食という一見異なるジャンルの中で、伝統に基づいた本物の技術に着目。無形文化遺産として登録された和食の普及にも公私にわたり努めている。株式会社山下 PMC 代表取締役社長。

https://www.ypmc.co.jp/