和食STYLE

文化遺産にふさわしい店「この一品」 新・和食めぐり⑳うぶかのセイコガニの蟹酢添え

冬になると必ず訪れる『うぶか』は、カニやエビといった甲殻類が好きな人にとっては、まさに天国に一番近い店であろう。
中でも11月上旬から1月初旬という限られた時期だけ供され、セイコガニを丸ごと一杯食べられる「セイコガニの蟹酢添え」を今回のこの一品に推したい。
身はもちろんのことカニミソや外子、内子までが食べられ、いただくたびに日本の食材の豊かさを実感している。

甲殻類尽くしのコースが食べられる
隠れ家のような都心の店

うぶか
東京都新宿区荒木町2-14 アイエスⅡビル 1F
03-3356-7270
https://ubuka.jp/

ズワイガニが解禁されるころになると、『うぶか』を思い出す。風情ある飲食店が立ち並ぶ新宿区荒木町の小道の一角にたたずむ隠れ家のような日本料理店で、私は天国に一番近い店のひとつだと思っている。
料理は季節ごとのカニやエビ料理のオンパレードで、まさに甲殻類天国とも言える店だ。これまでに『うぶか』で私がどんな甲殻類を食べたかをざっと思い出してみた。ズワイガニ、毛ガニ、タラバガニ、花咲ガニ、上海ガニ、車海老、伊勢海老、ボタン海老……それ以外にも希少なカニやエビが食べられることもある。
その中でも、特にお薦めの一品は「セイコガニの蟹酢添え」だ。セイコガニとは、主に日本海側で水揚げされたズワイガニのメスで、土地によってはセコカニや香箱ガニ、親ガニなどとも呼ばれている。

乱獲を防ぐため漁期は11月初旬から1月初旬までの2か月。とても貴重で、まさに冬の味覚のひとつだ。松葉ガニや越前ガニと呼ばれるオスもブランドではあるが、私はぜひメスの「セイコガニの蟹酢添え」をお薦めしたい。その一品は、小さなセイコガニの甲羅の中に、きれいに捌かれた身とカニミソ、外子、内子が収められている。外子とはズワイガニの卵のことでプチプチと口の中で旨味が一気に弾ける。一方、内子は卵巣を指し、トロトロっとした食感とコクのある独特の味わいで、日本酒のお供には最高の珍味である。もちろん身やカニミソも味わいが濃く、オスのズワイガニと比べて小ぶりではあるが、メスのセイコガニのほうが好きだという人も多い。

一般的にカニを食べるときは、殻を外すのに夢中で無言になってしまうが、『うぶか』で供されるカニはすべて外され、食べやすい状態で出てくるので、一口食べるごとに同席者と話が弾むのも嬉しい。

カニは食べる際の温度がとても大事で、人肌よりやや温かい位でないと旨味が十分に引き出されないものだ。『うぶか』はその点にも非常に気を使っていて、適切な温度で供されていて、私は食べるごとに天国にいるような幸福感を覚える。「セイコガニの蟹酢添え」はコース料理のひとつなので、予約困難店ではあるが、時期を狙ってぜひ食べてみてほしい。コースを食べている間はずっと天国にいるような状態が楽しめるはずだ。

プロフィール
川原 秀仁(かわはらひでひと)

街のにぎわいを創生し、建築に様々な役割を与える「施設参謀」として日本全国を飛び回る。事業と建築、和食という一見異なるジャンルの中で、伝統に基づいた本物の技術に着目。無形文化遺産として登録された和食の普及にも公私にわたり努めている。株式会社山下 PMC 代表取締役社長。

https://www.ypmc.co.jp/