和食STYLE

文化遺産にふさわしい店「この一品」 新・和食めぐり⑱万事屋 藤吉の天然すっぽんコース

今回は、天然のすっぽんが丸ごと味わえるコースを紹介する。すっぽんの独特の風貌から、食べるのを敬遠している人もいるが、コラーゲンが豊富で食べた翌日には肌の弾力が増すと言われるほど滋養に優れている。
日本では古代から食用に用いられていて、特にその出汁は気品を感じるほどの澄んだ旨味が特徴だ。本当に美味しいすっぽんの味わいを知って、日本料理の奥深さを感じてほしい。

日本料理の懐の深さを実感できる
天然すっぽんの滋味に富む味わい

万事屋 藤吉
東京都墨田区太平2-19-2 1F
03-3623-6618
https://www.toukichi-taishou.com/

今回紹介する店は、下町の名店『万事屋 藤吉』だ。ここは素材にこだわりを強く持った店で、何を食べても美味しいが、一般的に有名なのは冬のとらふぐコースかもしれない。
もちろん、ふぐのコースも間違いのない美味しさだが、私が一番お薦めしたいのは「天然すっぽんコース」だ。まずびっくりするのは、その価格である。いくら下町にある店であっても、やはり東京で1万円の「天然すっぽんコース/」は破格と言えるだろう。

リーズナブルな価格ばかりに目を奪われてはいけない。店主が厳選した天然すっぽんは、とらふぐと双璧をなす美味しさで、煮こごり、唐揚げ、鍋、雑炊と上品で滋味に富む料理が次々と供される。体中に絶え間なく美味しさがしみわたり、まるで美しいシンフォニーが流れているかのようだ。
私は、この「天然すっぽんコース」をいただくたびに極楽への迷路をさまよっているかのような幸福感に包まれる。

残念なことに、未だすっぽんと聞くだけで腰が引けてしまうという食わず嫌いの人が多いようだ。
確かに、その顔は獰猛で、「一度噛みつくと雷が鳴るまで離さない」という通説まであり、食べたことがなければとても美味しそうだとは思えない風貌である。
しかし、日本では遺跡からすっぽんが出土しているほどで、古くから食用として珍重されていたことがわかっている。
その身はほどよく弾力があり、旨味が強い。そしてすっぽんから取れるスープは濃厚なのに、どこまでも上品で、一度味わえば日本の食文化の奥深さを実感できるはずだ。

初めて食べる人には味の想像がつきにくいと思うが、だからこそ最初のすっぽん料理は美味しい店にこだわってほしい。
もし選別や調理方法に難があれば、仕上がった料理に差が出てしまうのは、どんな食材でも同じである。ましてや天然の食材は、それ自体の品質や下ごしらえ、調理方法によって大きく味わいが変わる。
『万事屋 藤吉』であれば化学調味料無添加で、野菜もオーガニック栽培のものだけを選んでいるので間違いがない。すっぽんの美味しさを知っている人ならば、ワンランク上の味わいをリーズナブルな価格で食べられることに、より一層の感動を覚えるはずだ。

プロフィール
川原 秀仁(かわはらひでひと)

街のにぎわいを創生し、建築に様々な役割を与える「施設参謀」として日本全国を飛び回る。事業と建築、和食という一見異なるジャンルの中で、伝統に基づいた本物の技術に着目。無形文化遺産として登録された和食の普及にも公私にわたり努めている。株式会社山下 PMC 代表取締役社長。

https://www.ypmc.co.jp/