和食STYLE

文化遺産にふさわしい店「この一品」 新・和食めぐり⑰かんだ光壽のお通し

一汁八菜の「お通し」と日本酒のマリアージュで生まれる愉楽の世界。東京・神田に日本酒の美味しい居酒屋の名店がある。
店主が日本全国から集めた日本酒は他ではなかなか見ることのできない希少な銘柄も多く、足繁く通うリピーターも多い。名物は、懐石料理を思わせるような彩り鮮やかな「お通し」だ。それを肴に楽しみながら、ゆっくりとお好みの日本酒を味わってほしい。

居酒屋の常識を超えたクオリティの
料理と日本酒に酔いしれる店

かんだ光壽
東京都千代田区鍛冶町2-9-7 大貫ビル1F
03-3253-0044
http://www.kohju.net/index.html

JR神田駅、そして東京メトロ銀座線神田駅のどちらからでも歩いて数分の場所にある『かんだ光壽』は、いわゆる居酒屋だ。
でも、並みの居酒屋ではない。まず、日本酒の種類の豊富さは驚愕もので、店主がこだわって日本全国から集めた日本酒がところ狭しと並んでいる。製造される本数が少なく、あまりこうした店舗では見かけることのない珍しい日本酒も数多く揃っていて、個人的には風の森や作(ざく)が珍しく、とても印象的だった。

料理も日本酒に合うよう趣向が凝らされていて、どれを食べてもレベルが高い。あえて一番のお薦めを挙げるならば、来店すると必ず供される「お通し」である。「お通し」というと、席料代わりに申し訳程度の小鉢が出てくるイメージだが、ここの「お通し」はまったく別物で、日本酒をゆっくりと楽しむために欠かせないパートナー的な存在である。
出される料理の内容は日によって変わるが、基本的には懐石料理の八寸をイメージした8品の料理が小鉢にきれいに盛り付けられ、さらにお椀までついてくる。要するに一汁八菜である。八寸がイメージされているだけあって、どの小鉢も非常に手がかけられていて、目にも鮮やかで美味しく、一度食してみると居酒屋料理の常識をひっくり返されるはずだ。
私が春頃訪れたときは、ツブ貝やホタルイカ、蒸かしたタケノコといった旬を感じさせる食材のほか、国産シシャモの一夜干しといった高級食材もついていて、コストパフォーマンスも抜群だった。
日本酒をゆっくり飲みながら、その当てとしていろいろなものを少しずつ食べたいという欲求が満たされ、この「お通し」だけで、日本酒も軽く2~3杯は飲んでしまう。もちろん、日替わりで内容が変わるので、何度通っても、新鮮な発見ができるもの嬉しい。

居酒屋というと「入りにくい」と尻込みをしてしまう女性もいるかもしれない。店内はカジュアルなしつらえで、接客もアットホームだから女性同士でも居心地よく過ごせるはずだ。
私はよく若い人を誘って飲みに行くが、連れて行った相手が『かんだ光壽』の常連になることも多く、それを聞くと誇らしいような嬉しいような気持ちになるのは、ここだけの秘密である。

プロフィール
川原 秀仁(かわはらひでひと)

街のにぎわいを創生し、建築に様々な役割を与える「施設参謀」として日本全国を飛び回る。事業と建築、和食という一見異なるジャンルの中で、伝統に基づいた本物の技術に着目。無形文化遺産として登録された和食の普及にも公私にわたり努めている。株式会社山下 PMC 代表取締役社長。

https://www.ypmc.co.jp/