和食STYLE

文化遺産にふさわしい店「この一品」 新・和食めぐり⑮よろにくのシャトーブリアン

海外にも似ている料理があるが、日本の焼き肉は特に牛肉を美味しく食べるために特化した和食の一形態だと思っている。『よろにく』は、そんな日本の焼き肉の歴史を変えた名店のひとつといえるだろう。焼き肉屋が大衆店ばかりだったころに、東京でも指折りの一等地である表参道で高級感を前面に打ち出し、そしてもちろん味にもこだわって作られた店である。今でもその魅力は色あせていない。

高級焼き肉店というジャンルを創造した
表参道の名店は今も健在

よろにく
東京都港区南青山6-6-22 ルナロッサ B1F

今でこそ洒落た店構えの焼き肉店は珍しくないが、『よろにく』がオープンしたときは、都会的なしつらえだけではなく、とても手の込んだ料理を提供する焼き肉店という斬新なコンセプトがとても話題になったものだ。
いわば、お洒落焼き肉店のはしりとして知られているが、今回改めて調べてみるとオープンは2007年であった。その当時は予約がまったく取れないほどであったが、もちろん今でも人気店であることは変わらず、最近は表参道の本店以外にも店舗が増え、外食を控えている人がまだ多いという状況下で、やっと予約が取りやすくなってきたなという印象だ。
オープンから15年近く経ったがコンセプトは揺るぐことなく、初『よろにく』だという人をアテンドすると、今でもこだわりの焼肉スタイルに驚き、感動してもらえる。

『よろにく』と聞くと高級店というイメージが前面に出がちだが、提供される肉はもちろんどれも上質で、むしろコストパフォーマンスは抜群だなと感じる。中でも特に私が美味しいと思うのは「シャトーブリアン」だ。
牛ヒレ肉の中でも中心部の特に肉質のいい部分だが、さっと焼いて、甘み控えめのタレにつけて食べると、柔らかく、しつこさは全く感じられないさらりとした旨味が口の中に広がる。タレの味わいと相まって、口の中でまるでシンフォニーを奏でたような余韻が残る。私はここの「シャトーブリアン」を食べると、いつも自然と目を瞑ってただただ陶酔感に浸ってしまう。

『よろにく』はガッツリと肉が食べたいときに訪れるようなオールドスタイルの焼き肉店ではないが、美味しい肉をいろいろな食べ方で少しずつ味わいたいときには最適だ。そういう意味では、いろいろな料理を少しずつ食べたいという女性にはぴったりかもしれない。高級店とはいえ比較的手ごろなコース料理もあり、店のしつらえもスタイリッシュなので、女子会やデートには最適なお店のひとつといえるだろう。

私も通い出してから長くなるが、ときおり思い出し猛然と食べたくなりつい予約を入れてしまう。お洒落な高級焼き肉店というジャンルのパイオニアとして、今でも間違いのない美味しい料理を提供し続けてくれる大切なお店のひとつだ。

プロフィール
川原 秀仁(かわはらひでひと)

街のにぎわいを創生し、建築に様々な役割を与える「施設参謀」として日本全国を飛び回る。事業と建築、和食という一見異なるジャンルの中で、伝統に基づいた本物の技術に着目。無形文化遺産として登録された和食の普及にも公私にわたり努めている。株式会社山下 PMC 代表取締役社長。

https://www.ypmc.co.jp/