和食STYLE

文化遺産にふさわしい店「この一品」 新・和食めぐり⑭九州郷土料理 赤坂有薫の山太郎蟹

秋になると必ず食べたくなるのが『九州郷土料理 赤坂有薫』の「山太郎蟹」だ。
私の故郷ではツガニと呼ばれているなじみの味わいだが、日本全国で食べられているという食材ではないようだ。
世界中にファンがいる上海蟹に近い種類の蟹なので、しっかりとした旨味と日本の清流育ちらしい上品な味わいが特徴的。この秋は、手ごろな価格で食べられる「山太郎蟹」をぜひ味わってほしい。

世界中で愛されるあの蟹を超える味わいが
気軽に楽しめる郷土料理の店

九州郷土料理 赤坂有薫
東京都千代田区永田町2-14-3 東急プラザ赤坂 3F
https://akasakayukun.com/

前も書いたが私は佐賀県唐津市の出身で、故郷の懐かしい料理を思い出すと、ついつい足が向いてしまう店がいくつかある。
東京、赤坂にある『九州郷土料理 赤坂有薫』はそうした店のひとつで、ワラスボやムツゴロウ、九州ではアゴと呼ばれているトビウオといった他の地域ではあまり見かけない魚だけではなく、マジャクやマテ貝などの甲殻類や貝類も揃っているのが特徴だ。
九州の料理を知っている人であれば、メニューを見ただけでも懐かしくなり感激してしまうに違いない。

懐かしい料理ばかりで、どれも魅力的なのだが、絶対に外せない一品を選ぶならば「山太郎蟹」を推したい。「山太郎蟹」は一般的にはモクズガニと呼ばれ、地方によっては川ガニやツガニ等とも呼ばれている。
私の故郷ではツガニと呼ばれていることが多く、個人的には毛蟹やズワイガニといった海のものも大好きだが、川で育つこのモクズガニが一番美味しいと思っている。私の故郷の祭り“唐津くんち”ではご馳走の主役として振る舞われているほどだ。
海の蟹に比べるとやや小ぶりだが、モクズガニはあの上海蟹の同属異種なので旨味が強く味わいは絶品だ。上海蟹は養殖も多いが、モクズガニは日本の清流で育っているため、茹でて食べると身は上品で洗練されている。もちろん、蟹味噌も濃厚で後を引く。

不思議なことに上海蟹は日本でも多くのレストランで食べることができるのに、モクズガニは九州や四国の一部、関東だと伊豆周辺で見かける程度で、こんなに美味しいのにもかかわらず食用だと見なしていない地域が多い。日本の河川であればほとんどの地域に分布しているし、多くの人が食べるようになれば上海蟹のように養殖をして数を確保することも可能だろう……そんな考えさえ浮かんできてしまうほど、「山太郎蟹」は格別な味わいだ。
旬は10月から1月位だが、晩秋が一番美味しいと言われている。
その時期だとしても仕入れの状況によっては食べられない場合があるので、必ず事前に確認をしておくこと。早めに予約をして希望を伝えておけば取り寄せておいてくれるので、一度電話をすることをお勧めする。

プロフィール
川原 秀仁(かわはらひでひと)

街のにぎわいを創生し、建築に様々な役割を与える「施設参謀」として日本全国を飛び回る。事業と建築、和食という一見異なるジャンルの中で、伝統に基づいた本物の技術に着目。無形文化遺産として登録された和食の普及にも公私にわたり努めている。株式会社山下 PMC 代表取締役社長。

https://www.ypmc.co.jp/