和食STYLE

文化遺産にふさわしい店「この一品」 新・和食めぐり⑬てんぷら深町の生うにのてんぷら

一流の料理人が正しい手順で作るてんぷらは、揚げ物料理ではなく蒸し料理だといわれている。ホテルの日本料理店で長年料理長を務めたご主人が腕をふるう『てんぷら深町』は、和食の芸術ともいえるてんぷら一本で勝負をしている店だ。食材がまとう衣は極限まで薄く、素材の味わいを引き出している。甘みと旨味を凝縮させた「生うにのてんぷら」は誰もが認める文化遺産の一品だ。

「生うにのてんぷら」は
生涯で一度は食べるべき絶品中の絶品

てんぷら深町
東京都中央区京橋2-5-2 AM京橋ビル1F

うにはほんの少し火を通したほうが、生のまま食べるよりも味わいが凝縮されて美味しいと知ったのは、京橋にある『てんぷら深町』を訪れるようになってからだ。ここは、天ぷらの名店として広く知られている山の上ホテルの料理長を長年務められたご主人が営む店だ。いわゆる山の上ホテル出身御三家の一角として知られ、伝統を引き継いだご主人が作るてんぷらは、どれも他では味わえない絶品だ。

その道のプロに話を聞くと、てんぷらは揚げ物料理ではなく蒸しものだという。
てんぷらは具材を衣で包んで油に触れるのを遮断し、その熱で具材の水分を抜いていくという高度な調理法で、職人の腕がなければ成り立たない。確かに『てんぷら深町』でいただくてんぷらは、どれも素材の味わいが引き立ちつつも決してしつこさや油っぽさはなく、いくらでも胃に収まっていってしまう。ご主人の手さばきに見惚れていると、コース料理を一度いただく間に2回は揚げ油を変えていることに気が付いた。
それを見て、一流店は口に入れる食材だけではなく、そうした細かいところにまで繊細な配慮が行き届いているものだと感銘を受けたものだ。

いつ訪れても極上の旬の食材が味わえるが、特に食べてもらいたい一品が「生うにのてんぷら」だ。こぼれるほどの生うにを大きな大葉で包み込み、限りなく透明に近いごくごく薄く衣をまとわせている。これこそが、まさに洗練の極みといえるだろう。「生うにのてんぷら」は『てんぷら深町』を代表する一品で、店を訪れるほとんどの人が注文している。
初めて食べたとき、まるで稲妻に打たれたような感激を覚え、思わず「何だ、こりゃ!」と声を上げてしまった。店の方も、そんな私の様子を見て、満足そうに微笑んだ。滑らかな食感はそのままに、人肌程度に熱が入った生うにはほんのりと香ばしく、大葉の風味も加わり絶品だ。

総じて、一流の料理人が作るてんぷらは値段が張るし、当然『てんぷら深町』も気軽に通える価格帯の店ではない。しかし、生涯で一度は食べておきたいてんぷらといったら、私は間違いなく、この「生うにのてんぷら」をお薦めする。

プロフィール
川原 秀仁(かわはらひでひと)

街のにぎわいを創生し、建築に様々な役割を与える「施設参謀」として日本全国を飛び回る。事業と建築、和食という一見異なるジャンルの中で、伝統に基づいた本物の技術に着目。無形文化遺産として登録された和食の普及にも公私にわたり努めている。株式会社山下 PMC 代表取締役社長。

https://www.ypmc.co.jp/