和食STYLE

文化遺産にふさわしい店「この一品」 新・和食めぐり⑫お好み焼 きじ丸の内店のスジ焼

『お好み焼 きじ丸の内店』は飲食店の多い丸の内界隈に店舗を構えながらも、絶えず人が並んでいる人気店だ。「スジ焼」は特にお薦めしたい一品で、ふわふわの生地とトロトロになるまで煮込まれたスジ肉がマッチし、その味を思い出すと、またすぐに食べたくなってしまうほど。日本のファストフードである粉もの料理を突き詰め、世界中の人に通じる絶対的な味わいを確立している。

日本のファストフード「スジ焼」を
味の芸術にまで高めた店

お好み焼 きじ丸の内店
東京都千代田区丸の内2-7-3 東京ビルTOKIA B1F

仕事でよく通る道沿いで偶然見つけたのが大阪発祥の『お好み焼 きじ丸の内店』だ。いつも行列ができていて、ずっと気にはなっていたのだが、なかなか時間が取れずに諦める日々が続いた。ところがちょうど一年ほど前に店の前を通ると、その日は並んでいる人がいつもより少なく、私はすぐさま入店を決めた。そして、店員さんが人気だと教えてくれた「スジ焼」を頼んでみた。

『お好み焼 きじ丸の内店』は各テーブルに鉄板があるが、それは保温用で、すべて店の人が料理を仕上げて持ってきてくれるので、お好み焼きや鉄板焼きの初心者でも安心だ。私はやっと入店できた喜びと高揚感を感じながらカウンター席に座り、興味津々で料理が作られるのを見ていた。

料理人の素晴らしい手つきに見惚れていると、ほどなく「スジ焼」ができあがった。青ネギがたっぷりとかけられ、見るからに美味しそうだ。熱々を口に放り込むと、ふわっとした生地と半熟でプルプルとした玉子、たっぷりと入った大き目のスジ肉が超絶融合して、旨味がいっぺんにやってきた。作る過程を見ていて気がついたのだがソースは2種類使われていて、甘めのソースと辛めのソースのコラボレーションも絶妙だ。焼けたソースの香りを堪能しながら実感したのは、「この味が嫌いな人はいないはずだ」ということ。お好み焼きや「スジ焼」などは、粉もの料理の定番として日本人には馴染みの味わいだ。格調高い料理だとは言わないが価格も手頃で、日本を訪れた外国人にも絶対に受け入れられるファストフードのひとつだと私は確信している。

ファストフードとはいえ、スジ肉は8時間以上煮込み、2種類のソースを使うなど美味しさへのこだわりは強く、『お好み焼 きじ丸の内店』では「スジ焼」を味の芸術品へとレベルアップさせている。その深い味わいに、私も食べた瞬間に脳裏に銀河が広がるようなインパクトを感じたものだ。

古くから町中にあるお好み焼店とは違い、女性同士でも入りやすいきれいな店舗も特徴的。食事時は行列必至だが、それさえ覚悟をすればいつでも美味しいものが食べられるという気軽さも嬉しい。

プロフィール
川原 秀仁(かわはらひでひと)

街のにぎわいを創生し、建築に様々な役割を与える「施設参謀」として日本全国を飛び回る。事業と建築、和食という一見異なるジャンルの中で、伝統に基づいた本物の技術に着目。無形文化遺産として登録された和食の普及にも公私にわたり努めている。株式会社山下 PMC 代表取締役社長。

https://www.ypmc.co.jp/