和食STYLE

文化遺産にふさわしい店「この一品」 新・和食めぐり⑧にっぽんの洋食 新川 津々井のチキンオムライス

オムライスは、日本人ならば一度は食べたことがある料理だといっても過言ではないだろう。ブームが来るたびに進化を遂げ、今では味わいやフォルム、ソースもさまざまなタイプがある。『にっぽんの洋食 新川 津々井』の「チキンオムライス」は、昔ながらのオーソドックスなタイプだ。シンプルだけれどもプロが作る正統派の美味しさは、家庭では再現不可能な技ありの一品だ。

外側はしっかりで内側はとろとろ
シンプルさの中に光るプロの技

にっぽんの洋食 新川 津々井
東京都中央区新川1-7-11
http://tutui.sakura.ne.jp/top.page.html

改めて考えてみるとオムライスは不思議な料理だ。懐石料理のような純粋な日本料理とは言い難いが、日本以外では見かけることはなく、渡来した料理という訳でもでもない。洋食屋でよく見かけるが、あえてジャンル分けをするならば、やはり和食になるだろう。また、誰でも一度は食べたことがある人気料理で、家庭でも作る人も多い。そんな背景があるからか、家庭料理のひとつとして捉えていて、わざわざレストランで食べるほどの料理ではないと思っている人もいるかもしれない。しかし、誰にでも作れるようなシンプルな料理だからこそ、プロのシェフが作ったものはひと味もふた味も違うのだ。

『にっぽんの洋食 新川 津々井』は20年ほど通っている洋食店で、他の料理も美味しいのだが、私はディナータイムに供される「チキンオムライス」一筋を貫いている。一度食べてみれば、ここの「チキンオムライス」が家庭ではとうてい真似できない完璧な一品であることがわかるだろう。

昨今は、いろいろな形状のオムライスがあるが、ここの「チキンオムライス」は端正な昔ながらのオーソドックスなフォルムが特徴的だ。卵の黄色とケチャップの赤のコントラストも美しく、食べる前から食欲をそそる。驚くのは、スプーンを一匙入れると、中からとろとろの卵があふれ出すことだ。外側はつやつやと滑らかでしっかりめの卵焼きの状態で覆われているのに、内側はふわふわの半熟のスクランブルエッグ状に仕上がっている。外側と内側の食感が全く違っていて、ひとつの食材でふたつの味わいを見事に表現している。これぞ、まさしくプロの技だ。

スクランブルエッグ状のふわふわ卵がまるでソースのようにチキンライスとよく絡み、食べるとスプーンを動かす手が止まらなくなる。味わいのアクセントになるのは、ほどよくかかっているケチャップで酸味の効いた味わいがチキンライスの甘みを引き立て、最後まで飽きずに食べ進めることができる。
『にっぽんの洋食 新川 津々井』は小洒落たしつらえで、老舗らしい丁寧で温かみのある接客も居心地がよく、デートにも最適なお店だ。

プロフィール
川原 秀仁(かわはらひでひと)

街のにぎわいを創生し、建築に様々な役割を与える「施設参謀」として日本全国を飛び回る。事業と建築、和食という一見異なるジャンルの中で、伝統に基づいた本物の技術に着目。無形文化遺産として登録された和食の普及にも公私にわたり努めている。株式会社山下 PMC 代表取締役社長。

https://www.ypmc.co.jp/