和食STYLE

文化遺産にふさわしい店「この一品」 新・和食めぐり⑦食彩 かどたの銀むつ漬け焼き定食

美味しいものへのアンテナを張っているからか、偶然に見つけた店で極上の一品に出会えることがある。『食彩 かどた』の「銀むつ漬け焼き定食」は、まさにそんな一品だ。脂乗りのいいふっくらとした銀むつに甘めのタレがほどよく絡み、私が銀むつに対して持っていたイメージをいい意味で爽快に裏切ってくれた。ランチは行列の日も多いが、魚好きならば外せない店のひとつだ。

銀むつの美味しさを教えてくれた
恵比寿の人気和食店の絶品ランチ

食彩 かどた
東京都渋谷区恵比寿西1-1-2 しんみつビル B1F
http://www.kadota.cc/sp.html

以前、仕事で恵比寿に来たときに、偶然ランチに立ち寄ったのが、ここ『食彩 かどた』だった。偶然とはいえ、店を見つけたのには理由がある。昼時に数人並んでいたのだ。ところが入ってみようかと店の近くまで来てみたのだが、雑居ビルの地下の店舗で様子が一向にわからない。通りにかけられた手書きの看板も素っ気ない感じで洒落っ気とはほど遠く、最初は入るのを止めようかと躊躇したのを覚えている。ところが、並んでいる人たちの雰囲気を見ると、単なる定食屋ではないような気がしてきた。まったくの直感だったが、食べることが好きな人たち、つまり食の手練れが並んでいるように見えたのだ。そこで、私もおとなしく列に並び、ランチを食べることにしたのだった。

『食彩 かどた』では、ランチに天然魚を炭火焼きにして定食スタイルで提供している。中でも、特にこの一品として「銀むつ漬け焼き定食」をお薦めしたい。かかっている甘めのタレと脂の乗った身の相性がとにかく抜群で、初めて食べたときは、そのタレの美味しさにも感動を覚えたほどだ。銀むつの皮目はこんがり、脂がほどよく乗っていて上品な味わいの身はふっくらとした仕上がりに焼かれている。そして絶妙なタレとの相乗効果で、一口頬張るとどんどんご飯が進んでいく。

正直に告白をすると、『食彩 かどた』で食べるまでは、銀むつをそれほど美味しい魚だとは思っていなかった。「むつ」と名前はついているが赤むつなどとは違う種類の魚で、日本近海で獲れるものでもないし…と少し斜に構えた考えを持っていたのだ。それが、『食彩 かどた』で初めて「銀むつ漬け焼き定食」を食べて以来、銀むつの美味しさに目覚めて概念がガラリと変わった。それからは恵比寿でランチ、特に魚が食べたい気分であれば『食彩 かどた』がすぐに思い浮かぶし、少々並ぶことも厭わない。さばの塩焼きや銀しゃけの塩焼き、銀シャケのハラス焼きなど、どれも絶品の美味しさだが、銀むつのふっくらとした食感とそこに絡むタレをまた味わいたくなって、恵比寿での仕事を心待ちにしている今日この頃だ。

プロフィール
川原 秀仁(かわはらひでひと)

街のにぎわいを創生し、建築に様々な役割を与える「施設参謀」として日本全国を飛び回る。事業と建築、和食という一見異なるジャンルの中で、伝統に基づいた本物の技術に着目。無形文化遺産として登録された和食の普及にも公私にわたり努めている。株式会社山下 PMC 代表取締役社長。

https://www.ypmc.co.jp/