和食STYLE

文化遺産にふさわしい店「この一品」 新・和食めぐり⑤大和寿司の大トロ

豊洲市場にある『大和寿司』は築地時代から、魚のプロフェッショナルに愛され続けている名店だ。リーズナブルな価格なのに本格的な極上の寿司が食べられる店として知られ、早朝から行列ができることも。目利きされた選りすぐりの魚にはどれも確かな仕事が施されていて、特に「大トロ」は近海の本マグロだけを使ったお薦めの一品。親切な接客で寿司屋ビギナーでも安心。

魚のプロも通う市場内の名店で
本格江戸前寿司の基本を身につけたい

大和寿司
東京都江東区豊洲6-3-1
豊洲市場 5街区青果棟 1F

若い頃、当時の築地市場全体に関係する設計の仕事をしていて、きちんと魚のことを勉強しようと思って通いつめたのが、場内にある『大和寿司』だ。当時からプロ中のプロである市場の人たちが通う名店として名を馳せていた。本来は市場で働く人のための店なので、今でも朝6時に開店し、午後は13時まで。品揃えが豊富なのは10時ころまでなので、張り切って朝から寿司を楽しんでほしい。

当然のことながら、『大和寿司』は新鮮さだけがウリの寿司屋ではない。すべての寿司にていねいな仕事が施されていて、もし同じクオリティのものを銀座の高級店で食べようとしたら、何万円も支払わなくてはならないはずだ。美味しい寿司を追求したいという気持ちが芽生えたら、まずはこの店に来て、寿司の基本を知るべきだとさえ思う。リーズナブルな価格なので、何度でも通えるのもありがたい。

この店に来たら絶対に食べなくてはいけないのは、「大トロ」だ。定番のおまかせメニューでも毎回最初に供される。極上の「大トロ」が惜しみなくおまかせメニューに使われているのは、市場でトップクラスの人気を誇る『大和寿司』ならではのこだわりだろう。日本近海で獲れた本マグロだけを使用していて、大間や南紀勝浦、塩釜など、その時々の一番美味しいものが仕入れられている。

赤身の中にまるで銀河のように広がっているのは、網目状に入ったサシと呼ばれる脂肪だ。きめ細やかな身は、色合いのコントラストも美しく、食べる前から気持ちが上がってくる。一口噛みしめると、しゃりと混ざり合って、本マグロならではの旨味があふれ出てきて口の中にいっぱいに広がる。この『大和寿司』の「大トロ」は、奥深い寿司の世界の入り口となるうる一品だろう。

築地に店があったときは行列必至で、日によっては2時間待ちということもあった。今は新型コロナの影響で外国人観光客も少なく、かなり入りやすい印象だ。豊洲市場に店舗が移ってからはネット予約も可能になったのでスケジュールも組みやすい。いつ訪れても丁寧な接客で、寿司屋には通い慣れていない人でも安心して通うことができるはずだ。

プロフィール
川原 秀仁(かわはらひでひと)

街のにぎわいを創生し、建築に様々な役割を与える「施設参謀」として日本全国を飛び回る。事業と建築、和食という一見異なるジャンルの中で、伝統に基づいた本物の技術に着目。無形文化遺産として登録された和食の普及にも公私にわたり努めている。株式会社山下 PMC 代表取締役社長。

https://www.ypmc.co.jp/