和食STYLE

文化遺産にふさわしい店・この一品 新・和食めぐり④丸一の極上ロースカツ定食

蒲田にある『丸一』は、行列必至のとんかつ屋として名が知られている。私も先代のお店から通っていて、とんかつが食べたくなったらここに来る。青春時代に夢中になった味が今でも変わらずに食べられるとあってノスタルジーさえ感じられる。毎回並ぶことを前提に早めに出発して、分厚くて肉の美味しさがしっかりと味わえる「極上ロースかつ定食」を食べるのが私の定番だ。

サクサク衣に柔らかジューシー肉
行列必死の「極上ロースかつ定食」

丸一
東京都大田区蒲田5-28-12

蒲田にある『丸一』はJRの京浜東北線の駅、もしくは京急本線の京急蒲田駅が最寄り駅で駅から徒歩5分以上かかる。蒲田は活気のある商店街が魅力的な町だが、用事がなければ訪れる機会がないという人も多いだろう。お店は庶民的な雰囲気で、町の風景に溶け込んでいる。ところが開店前になると行列ができ、『丸一』は遠方からも多くの人が足を運ぶとんかつ店なのだ。家庭料理としても供されるが、ここの「極上ロースかつ定食」はとんかつ界の頂点のひとつともいえる一品が味わえる。

私がこのお店にはまったきっかけは、若いころ、先代がやっていた大森のお店で食べたとんかつが衝撃的な美味しさだったことにさかのぼる。まるでドラムスティックのような太い菜箸を器用に使って、油の中に分厚い豚肉をくぐらせていく様子を見るだけでわくわくしたものだ。そのお弟子さんだった方がのれん分けを許され、開いたお店が蒲田の『丸一』である。先代の手さばきが思い出されるドラムスティックのような太い菜箸もしっかりと受け継がれている。もちろん受け継がれているのは菜箸だけではない。肉は、千葉県の銘柄豚である林SPF豚のみを使用。そして、分厚く切ったロース肉を香ばしく食感パリパリに揚げるために、衣のパン粉は生と乾燥をこだわりの配合にしている。高温の油で揚げてからしばらく置き、中まで火を通す。そうすることで外側の衣は薄づきで均一、包丁を入れるとサクっと切れて、中はピンク色がほんのり残る肉汁たっぷりのジューシーなとんかつが完成するのだ。頬張ると厚みを感じさせない柔らかな肉から、深い旨みと甘みがあふれ出してくる。ちょっと甘めのタレをかけることで、さらに旨みが引き立つが、常連さんの中には肉の味をダイレクトに楽しみたいと塩で食べている人もいる。

極上ロースかつ定食」は肉だけで300グラム弱あり、量が多いと感じる人もいるかもしれないが美味しいからか女性でも多くの人が完食している。「極上ロースかつ定食」は数に限りがあるので、必ず食べたいのであれば開店30分前には到着するのがお薦めだ。

プロフィール
川原 秀仁(かわはらひでひと)

街のにぎわいを創生し、建築に様々な役割を与える「施設参謀」として日本全国を飛び回る。事業と建築、和食という一見異なるジャンルの中で、伝統に基づいた本物の技術に着目。無形文化遺産として登録された和食の普及にも公私にわたり努めている。株式会社山下 PMC 代表取締役社長。

https://www.ypmc.co.jp/