和食STYLE

文化遺産にふさわしい店・この一品 新・和食めぐり①うなぎ魚政の「うな重」

海に囲まれ、山や川といった豊かな自然の恵みを受けて育まれてきた和食は、世界からも認められ、愛されている日本の大切な文化のひとつ。伝統的な正統派の日本料理からカジュアルで家庭的な和食のメニューまで、ジャンルや店の種類にこだわらず、新定番となる店を紹介していく。選定者は「施設参謀」として活躍する川原秀仁さん。第一回目は、都心部から離れたうなぎの店。ちょっと意外な店選びのポイントとは?

関東ならではのふわふわ食感の
うなぎが食べられる名店

うなぎ魚政
東京都葛飾区東四つ木 4-14-4
https://unagi-uomasa.jp/

連載の初回に紹介するのは、東京都葛飾区にある『うなぎ魚政』だ。最寄り駅は京成押上線の四ツ木駅で、お世辞にも都心部にあるとは言えない場所だ。まさに、そのことが『うなぎ魚政』を選んだポイント。時節柄、以前に比べて外食の機会が減ってしまったという人が多いはずだ。タイミングを見計らったり、一緒に行くメンバーを厳選したりとあれこれ気を使わなければいけないのであれば、せめて心から美味しいと思える店をお薦めしたい。『うなぎ魚政』は都心の店とは違って利便性には欠けるが、わざわざ出かけることで「本当においしい店を選んだ」という特別感を演出できる。小ざっぱりとしていて落ち着いた雰囲気の店だから、相手を選ばず、ちょっと贅沢をしたい日にゆっくりと過ごすことができるはずだ。

この店で絶対に頼むべき一品は「うな重」。天然物もいいけれど、間違いなく食べられるうなぎ坂東太郎という養殖物がお薦め。うなぎ坂東太郎は、利根川の天然うなぎに近い味わいを再現していると言われていて旨味が強いタイプ。だから、焼いた後に蒸してふんわり仕上げる関東ならではの調理法によく合って、ふわふわの食感と地味深い味わいが楽しめる。パリッと焼き上げて食感も旨味もギュッと凝縮した関西風のうなぎが好きな人の中にも、『うなぎ魚政』に出会って、関東風の美味しさを知ったという人もいるほど。 店ではオーダーが入ってから、うなぎを捌き、焼き上げている。だから、「うな重」が出てくるまでには小一時間ほどの待つことになるが、その間も捌きたてのうなぎだからこそ味わえる「肝わさ」や香ばしくてまったく臭みのない「骨せんべい」等が味わえる。それをつまみに楽しむアルコール類も種類が多く、『而今』や『黒龍』といった日本酒からプレミアム焼酎まであるのは、人気店ならではの品揃えだ。 そうして待ちに待った後、運ばれてくる「うな重」は、ご飯粒が見えないほどお重にぎっしりとうなぎが敷きつめられている。住宅街の店と油断しないこと。口の中でほどける「この一品」を求める人は多く、予約必須だ。

プロフィール
川原 秀仁(かわはらひでひと)

街のにぎわいを創生し、建築に様々な役割を与える「施設参謀」として日本全国を飛び回る。事業と建築、和食という一見異なるジャンルの中で、伝統に基づいた本物の技術に着目。無形文化遺産として登録された和食の普及にも公私にわたり努めている。株式会社山下 PMC 代表取締役社長。

https://www.ypmc.co.jp/