和食STYLE

檀崎真由美のボルドー通信『フランス必食N E W S』⑬

今回で最終回となるボルドー通信は、ボルドーで日本人女性初のワイン醸造家が拘りを持って造るオーガニックワインのシャトー・ジンコ(Chateau Ginkgo )について。

オーナーの百合草梨紗さんはワイン好きが高じて21歳でボルドーへ留学。ボルドー商工会議所が運営する専門学校で、商経済、ワインの醸造術やテースティングなどを学び、優秀な成績で卒業。彼女の高い試飲能力を認められ、ボルドー、パリを筆頭とするワインの有力メダルコンクールの審査員を務める程になる。

2006年にボルドーの日本人最年少ネゴシアン(ワイン商)として、ご主人のマチュ・クレスマン氏とカイワインを設立。

グランクリュをはじめ、多くのボルドーの生産者と取引をしており、扱い量も極めて多い事から更にワインにのめり込み、造詣を深めて次第に『自分のオリジナルワインを造りたい!』という思いが膨らみ実現に向かう。

2015年11月にサンテミリオンの少し先のサン・フィリップ・デグイ(Saint Philippe d’Aiguille)村に1.5ヘクタールの葡萄畑を購入し、丁寧な手作業で彼女オリジナルのワインを造り始めた。

ご近所で交流があるボルドーワインの最高峰と名高いペトリュスの醸造に44年間携わった醸造家のジャン・クロード・ベロエ氏が、彼女の思いに賛同し、畑探しの視察にも同行。 ベロエ氏から『ここは良い畑だ!』と太鼓判を押されたこの土地の購入を決めた事からも、彼女が幸運の持ち主である事が窺える。

彼女は『本当に条件の良い畑は、口コミ等でなかなか情報すら入ってこない為、最高の条件の葡萄畑を見つけ出す事にはとても苦労した』と言っていたが、『10年間ワイン商をしていたので、色々な生産者との信頼関係があったからこそ、今日のシャトージンコと素晴らしいテロワールとの出会いを運命づけている様に、初めて美味しいと思うボトルを見て、サンテミリオンと記してあったあの日から運命は決まっていたのかもしれない』と語る。

シャトーという名を聞くと豪華絢爛なイメージを持つ人が多いかもしれませんが、フランスの家庭にお邪魔している様なアットホームな居心地の良さ。

ジンコとはイチョウの樹の事。ドイツの詩人ゲーテがラブレターにイチョウの葉を入れて送ったと言われ、イチョウは愛と友情の印とされている事から『 みんなに長く愛されるワインを造っていきたい!』という思いや、『イチョウは東洋の樹なので、東洋人が造るワインとして自分と重ね合わせ、又イチョウの樹の様に生命力溢れる芯のある力強いワインを造りたい!』との思いからこの名前にし、畑購入後の次女の誕生と共にイチョウの樹を植えたとの事。(実は3人娘のママなのです)

シャトー・ジンコは自然を尊重し、一切除草剤、殺虫剤、合成殺菌剤は使用せず、オーガニック農法に拘り、年間生産量約5,000本のワインを生産している。このワイン畑は平均樹齢が35~40年で中には85年の葡萄の樹もある。

化学肥料を使用しない代わりに剪定したブドウの枝や、果梗を粉砕し、コンポストとして利用し、庭のハーブや花も調合剤として使用するサステナブルな循環が自然に行われている。

又、羊飼いがつれてくる羊の群れが畑の列間の草を食べて、糞を落としていく事もまた自然の肥料に。畑に隣接する生け垣や果樹も野生動物や昆虫のすみかとなり、バイオダイバーシティを守っている。

秋の収穫時には毎年近所のフランス人やボルドー在住の日本人も手伝いに集まり、皆で丁寧に葡萄を手摘みして秋の風物詩を楽しみながら彼女を応援。

次に選定したアロマたっぷりの葡萄をシャトージンコ特注のステンレスタンクに入れる。 葡萄の果汁に果皮や種子、梗を漬け込む事で、ワインの色素であるアントシアニンや、渋み成分のタンニンを抽出するマセラッション(醸し)と言われる工程に移り、その際にルモンタージュという果帽の下のワイン液を撹拌し、均一にする為の櫂入れ作業も行います。 シャトー・ジンコではビンテージにより、その櫂入れ作業を自らタンクの中に入り、足で踏むピサージュ・ア・ピエという櫂入れ作業行っているので、私も梨紗さんと二人でシンクタンクの中に入り、葡萄を足踏みする作業を実体験してきました。

この作業により野生酵母が働き糖分を食べてワインに変わっていくので、とても重要な作業になります。梯子につかまりながらシンクの底に沈まない様に移動し、まんべんなく足踏みしながら櫂入れしていくのは楽しいけれど、なかなかの重労働でした。
(この時にインスタライブを行いアーカイブ動画を残しているので良かったらご覧下さい)

その後フレンチオーク樽に移してマロラクティック発酵。18か月~22か月間樽の中で長くゆっくり熟成させるこの発酵方法は、バクテリアを添加せず、春になり自然に発酵が始まるのを待ってあげるとの事。

シャトー・ジンコは澱引きを1回しかせず、コラージュ(清澄)やフィルターにも敢えてかけないのも特徴です。そこには果実味豊富でピュアな手造り感や、そのままブドウを食べているような感覚を味わってもらいたいとの彼女の拘りがあります。その年に収穫されたビンテージ毎に丁寧に育てられたブドウの味を出来るだけそのままの感覚とアロマで堪能して欲しいという彼女の思いがあるからです。

彼女の夢が叶った2016年のシャトー・ジンコのファーストヴィンテージを皆で味わいながらお祝いしました。私も記念に1本購入して今もまだ大切に寝かせてあります。

こちらはまだ外出制限下の時に梨紗さんが私のオンライン中国料理レッスンに参加して、リモートで一緒に作った担々麵に、シャトー・ジンコを合わせて味わいながら『美味しい!中華にも良く合う!』とマリアージュを楽しみながら喜んでくれた時の思い出写真。

こちらのシャトーは宿泊可能で、事前にオーダーしたらご主人のマチュ氏が剪定した葡萄の枝を使用してリブロースや鴨肉を焼き、シャトー・ジンコのワインと合わせて味わえます。作業後のこの日は私が焼き場担当に。庭のイチジクが付け合わせで美味しかったです!

以前にシャトージンコのバーベキューに誘われて、庭で香ばしく焼いていた鴨肉が、気が付いたらマジックの様に突然無くなる事件が発生。隣の犬がちょっと目を離した隙に口の中に入れ華麗に逃げて味わう完全犯罪に皆で大爆笑した事がありました。そんな事件も楽しい思い出になるシャトー・ジンコは今日本でも人気となり、デパートやネット購入も出来るので飲んでみては如何でしょうか?

サクラアワード等も受賞しているこちらのシャトー・ジンコのワインについての詳しい情報はこちらから。お値段がお手頃のG BY YURIGUSAもお勧めです。

chateau-ginkgo-シャトージンコ-Bordeaux-ボルドー

1年間連載した『檀崎真由美のボルドー通信/フランス必食NEWS』が最終回になりました。今迄読んで下さった皆様、和食STYLEのスタッフの皆様有難うございました。ボルドー観光の参考や、ちょっとした観光気分に浸れたら嬉しく思います。

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檀崎真由美(だんざきまゆみ)

フランスボルドー在住料理家。ダンラキュイジーヌ(Dans La Cuisine)主宰。
La société MT GESTION CULINAIRE共同代表(フランス)。
Alchemist.Pte.Ltdコーポレートシェフ(シンガポール)。

和洋中の料理を専門的に学び、著名な一流シェフのアシスタントを経験後、仏料理店『シェ松尾』で5年修行し独立。
クッキングスタジオでの料理教室開催、大手企業や海外一流ブランドのパーティーフードをシェフとして手掛け、人気を集める。アメリカ、シンガポール生活後、現在ボルドーを中心にフランス政府正規就労許可の元、料理教室、オンラインレッスンを開催。英語と仏語でも和食レッスンを行い、全国放送『F R A N C E3』にてお節料理を作り、自身の料理活動と共に紹介される。フランス料理だけでなく、和食、本格中華点心迄ワンランク上のクオリティーに仕上げるテクニックで国内外問わず活躍中。

https://instagram.com/mayumi_bdx