和食STYLE

⾼橋綾⼦のNO SUSHI, NO LIFE – 第六〇回 鮨さいとう麻布台

第六〇回 鮨さいとう麻布台

注目の麻布台ヒルズとはいえ、この価格!?

2023年11月に開業するも、全部のお店がオープンできず「どーなってんの?」とヤキモキしていた麻布台ヒルズ。
あの「鳥しき」「鰻まえはら」「根津松本」そして「やま幸」まで名を連ねる待望の「ヒルズマーケット」が今年 3 月にやっとスタートしました。その中に「鮨さいとう麻布台」があるんです。ここに入ると聞いた時から「どこに? 価格帯は?」と超気になっていましたがその全貌が明らかになりました。

暖簾がかかった引き戸があって、一つのお店として存在してはいますが、スーパ ーマーケットの中なんで気分は上がらないですよ。はっきり言って「え、ここ?」 って感じ。入ってしまえば確かにお鮨屋さんなんですけど、もともと立ち食いスタイルを考えていたのと、ランチを2回転させたいのとで、あえて背もたれは低く座り心地の良くない椅子にしたが故のチープな印象。
空間の問題をリカバリーするためなのか、日本酒は「黒龍」のみ、超レアなものあるっていう新たな試みをしています。

夜のおまかせコースはつまみ5品と握り12貫、玉、お椀がついて33,000円。ランチは握りのみ12貫で 16,500円です。
こちらの親方は第三七回にご紹介した「鮨つぼみ」の個室担当だった滝本純也さん。鮨職人歴10年以上、齋藤さん直伝の“沈む鮨”もしっかり習得されています。つまみは「鮨つぼみ」っぽく本店のものとオリジナルのもののミックスです。目新しいのは「八寸」みたいなものを、との司令により小鉢を 2〜3 品のせて提供することかな。炭が使えないので焼物に苦戦を強いられていますが、そこは「黒龍」の酒粕漬けにして頑張っています。「のれそれ」を定番にするのも系列店初だし、こういう努力には拍手を贈りたい。

握りはやっぱりおいしいです。中トロはとぅるとぅるだし、春子鯛は肉厚で温度も完璧、サヨリは2枚重ねにして食感良くしているし、鯵もとろとろです。仕込み仕事は本店でしているのできっちりしています。酢飯は本店と同じ「あきたこまち」を使うも炊飯器が違うと炊き上がりも違うらしく、もうちょっと粒を立たせたいと試行錯誤中とのこと。正直、そこまで悪くないけど、確かに鮨ダネによっては粘り気を強く感じてしまうかも。でもまだオープンして1週間だし仕方ない。それに滝本さんが気づいている以上、改善されていくはず。ホント、気づかない人が多いから。

こういう空間だから“いいものを仕入れていいものを出す”と言い切るのもいい!けれど、こういう空間で3万超えはどうなんだ? 「鮨つぼみ」同様、若手育成プロジェクトなんだけど、こういう空間なら飲んで食べて1万円台にすべきでは。ホント、最初の構想通りに立ち食いにすればよかったのに。「ブルペン」みたいに11時から20時まで4回転くらいさせれば十分採算取れると思うけどな。本日のお会計、レモンサワー、日本酒2合、おまかせコースで 36,740円。予約はまだ取りやすいけど、「鮨つぼみ」に行くかな。

綾⼦の⾃分勝⼿評価基準
おひとりさま度:ひとりではもちろんのこと、たとえ初めてでも楽しめるかどうか。また何か素敵なことが起こるか、客層はどうかも含む。
⼝福度=価格の満⾜度:鮨⾼騰の折、基準は⾷べて飲んで 4万円以下。おいしいは当然、⽀払いをした時にどう感じたか。
ロケーション&設え:「google map」で迷わずたどり着けるか。内観のセンス、器や酒器、トイレの清潔感など店内の印象。
サービス:スタッフの接客の満⾜度
のどの渇き度:完璧に個⼈的主観だが、塩分過多などでのどが乾くような味が苦⼿。評価は星が多いほど、のどは渇かないということ。

【評価】
おひとりさま度 ★★★★
⼝福度=価格の満⾜度 ★★
ロケーション&設え ★★★
サービス ★★★★
のどの渇き度 ★★★★

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⾼橋綾⼦
(たかはしあやこ)

フードパブリシスト。国内外ファッションブランドのプレスとして従事した中で肥えた“食”へのこだわりは、その後の素晴らしい人々との出会いと相まっていつしか人⽣そのものに。
その間に培った食のデータと人脈を武器に、年間 1000 軒ほどの外食で“喜ばれるレストラン”の発掘に勤しむ⽇々。「綾⼦のギョーカイ総受けグルメ手帖」「BRUTUS」「GQ」「食べログマガジン」「集英社オンライン」などに寄稿。BS フジ「リモート☆シェフ」では審査員として定期的に出演。
東京都主催の食の祭典、「Tokyo Tokyo Delicious Museum 2023」のプロデューサーに就任。また企業のメニュー開発やアドアイザーにも携わる。おいしいものしか喉を通らない不思議体質。