⾼橋綾⼦のNO SUSHI, NO LIFE – 第五九回 鮨ゆうき
第五九回 鮨ゆうき
きっちりな江戸前好きなら絶対にハマる!
関内で大人気、横浜NO.1とも言われていた「常盤鮨」の3代目親方、林ノ内勇樹さんは「すきやばし次郎」の系譜、今は無き名店「鮨 水谷」で二番手だった人。ご実家の店を閉めて、3月9日に広尾に「鮨ゆうき」として独立しました。
今のお鮨は赤酢でふわりと解ける酢飯が主流になっていて、どんだけ沈むかが高評価だったりしますが、こちらは真逆で硬く酸味がキリッと利いた酢飯で“端正”という言葉がピッタリ。
つまみからの握りというおまかせコース、つまみは地味ですがきっちり仕事をしているのがわかります。薄口醤油と味醂のみで炊いた牡蠣はぷっくりとして、口にするとその出汁と牡蠣のうまみが手を繋ぎながらじんわりと広がるのです。
さらに繊細な針海苔が主張しながらもおいしさの後押しをする。こんな牡蠣あるんだってくらいすっごくおいしい。鰹の漬けはサラリとした味わいだけどねっちりとした食感、旬のホタルイカは火が入っているのにレアな感じがする。本当に見た目は食材だけがのってるだけなんですけど、食べると納得のおいしさで、なんか頷いている自分がいます。
さて握りはといいますと、1 貫目の「針魚」でうっかり酢飯が喉に引っかかりむせそうになったくらい酢が利いてます。噂には聞いていたけど本当に硬派な酢飯。米酢のみを使い、米は硬めに炊いて1 粒ずつほぐれる感じ。
そして酸味が強い、でも塩みは控えめなのか喉が渇く感じはしません。お鮨って酢飯と鮨ダネのバランスがいちばん肝心だと何度も言っていますが、こちらはそれが完璧なんです。
赤身はまさにそれを象徴していて、おそらく鮪の香りとうまみを酢飯に合うまで引き出しているんじゃないかと思われます。
親方が「うちは好みが分かれるので」と仰るようにこういうお鮨が好きな人にはたまらんでしょう。小肌なんてまさにお手本のような江戸前で、きっちり締めるけど保水はしていてしっとりと身も厚い。まっすぐピンと張っていて姿勢がいい車海老は味噌がちょびっと残っていて(というか残している?)甘みがある。本当にいい仕事してますね〜。
穴子はふんわり、煮つめもたっぷり、でも味は濃くないんです。こういう塩梅が天才的です。そして林ノ内さんの指が長くて握る姿がとても 美しいの で惚れ惚れします。思わず「指、長いですね」って言ったら「実は大して長くないんです」と。師と仰ぐ水谷八郎さん の 握る姿 が 美しく 、どうしたら良いか訊ねたところ「指をピンと立てると美しく見える」という 教え を守っているのだそう。いい、本当にいい! 握っている時は集中されているけど、そうでなければ和やかで話もおもしろい。 本当に 人が好きなんだろうなって思います。坊主じゃないし、こりゃ、モテ系ですな。 あと、林ノ内さんを支えるお弟子さんたちもいいんです。
気が付く、親方をさりげなくサポートする、なんかすごくいいチームなので雰囲気がめちゃくちゃいい。本日のお会計、すだちサワー、日本酒3合、つまみ7品、握り11貫で36,700円。 すぐ予約困難になりそうです。
綾⼦の⾃分勝⼿評価基準
おひとりさま度:ひとりではもちろんのこと、たとえ初めてでも楽しめるかどうか。また何か素敵なことが起こるか、客層はどうかも含む。
⼝福度=価格の満⾜度:鮨⾼騰の折、基準は⾷べて飲んで 4万円以下。おいしいは当然、⽀払いをした時にどう感じたか。
ロケーション&設え:「google map」で迷わずたどり着けるか。内観のセンス、器や酒器、トイレの清潔感など店内の印象。
サービス:スタッフの接客の満⾜度
のどの渇き度:完璧に個⼈的主観だが、塩分過多などでのどが乾くような味が苦⼿。評価は星が多いほど、のどは渇かないということ。
【評価】
おひとりさま度 ★★★★
⼝福度=価格の満⾜度 ★★★★
ロケーション&設え ★★★
サービス ★★★★
のどの渇き度 ★★★★
(たかはしあやこ)
フードパブリシスト。国内外ファッションブランドのプレスとして従事した中で肥えた“食”へのこだわりは、その後の素晴らしい人々との出会いと相まっていつしか人⽣そのものに。
その間に培った食のデータと人脈を武器に、年間 1000 軒ほどの外食で“喜ばれるレストラン”の発掘に勤しむ⽇々。「綾⼦のギョーカイ総受けグルメ手帖」「BRUTUS」「GQ」「食べログマガジン」「集英社オンライン」などに寄稿。BS フジ「リモート☆シェフ」では審査員として定期的に出演。
東京都主催の食の祭典、「Tokyo Tokyo Delicious Museum 2023」のプロデューサーに就任。また企業のメニュー開発やアドアイザーにも携わる。おいしいものしか喉を通らない不思議体質。