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とんかつ3名士 河田部長のとんかつひとり旅㊸ とんかつ牡丹(仙台・青葉通一番町)

仙台の人気居酒屋「氏ノ木」が2022年11月にオープンさせた店です。「氏ノ木」の店主小林弘幸さんはとんかつ好きで、各地のとんかつを研究してこの店を出したそうです。仙台の繁華街、青葉通一番町から少し南に下ると店名を染めた紺の暖簾が見えてきます。店内は細長いコの字型のカウンターがあり、その奥に厨房があるという少し変わった造作になっています。

メニューは壁の黒板と貼り紙に書かれています。数種類の銘柄豚が用意されており、ロースは伊達の赤豚、32℃豚、岩中豚、白金豚など、ヒレは宮城もち豚のみとなっていました。価格はどれも2000円前後とお手頃に設定されています。元々は宮城県高清水で生産される脂の融点が32℃(一般の豚は38℃程度)という32℃豚を試してみたかったのですが、残念ながら売り切れでした。しかし、石巻の島豚のロースが入荷していたので、そちらを選択しました。この豚は絶えかけていた奄美大島の在来種の保存のため、石巻の久保畜産に飼育が託されているもので、8〜12ヶ月の長期飼育を行い、週に8頭のみしか出荷されない希少な銘柄です。「氏ノ木」の名物料理であるアジフライが単品でメニューに載っているので追加しました。

カウンターからは厨房の作業がよく見えないのですが、時間と衣の色の淡さからすると、低温で揚げているようです。揚げ油はラードに米油をブレンドしているとのことで、あまり重さは感じられません。肉はしっとりして柔らかく、この銘柄も融点が低いようで脂はさっと溶けます。別皿で塩とソースが出ます。塩はもちろんのこと、甘さ控え目のソースも合います。追加のアジフライは衣はさっくり、中はレアに仕上がっていて、他にはないユニークなものでお勧めです。味噌汁は豚汁のようですが、豚は主に出汁に使われているようで、なめこや大根などが入っています。とんかつのお供としては適しています。ご飯は牛タンの本場仙台らしくつや姫に麦を混ぜています。
近い将来東北を代表するとんかつ店になることが期待される店です。

お勧めポイント
● 地元を中心にした銘柄豚の品揃え
● 手頃な価格設定

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河田 剛

大手証券会社の調査業務に携わる傍らでグルメアナリストとしても活躍。さまざまな料理を食べ歩き、著書『ラーメンの経済学』(KADOKAWA)で話題に。料理の背景や素材、流通に至るまで、幅広い視点での鋭い洞察が特徴。