和食STYLE

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NIPPONの「和食遺産」を巡る旅 郷土料理編 金沢の「はす蒸し」

女川
金沢の街を流れる2つの川のうち「女川」と呼ばれ、親しまれている浅野川。
川沿いには茶屋街として栄えた主計町の風情ある町並みが残っています。

倉本康子さん、歴史ある城下町で加賀野菜の滋味を味わう

今回旅をしたのは北陸新幹線の開通で東京から2時間半と、アクセスがグッと便利になった人気観光地・金沢。
山海に囲まれたロケーションで豊富な食材に恵まれ、武家文化の伝統を受け継ぐ独特な食のスタイルが発展した美食の都で、伝統野菜の加賀れんこんを使った秋〜冬の代表的な郷土料理を取材しました。

加賀れんこんのモッチリとした食感を味わう加賀料理の定番

加賀料理
ーダー切り替えカットソー¥15,000肩にかけたカーディガン¥27,000ネックレス¥11,000(すべてキャラ・オ・クルス)ピアス(私物)

加賀百万石の歴史に育まれてきた加賀料理は、地元でとれた食材を用い、九谷焼や金沢漆器などの華やかな器とともに目で、舌で味わう郷土料理として知られています。
代表的な加賀料理には「治部煮」や「鯛の唐蒸し」などがありますが、「はす蒸し」も割烹などでよく目にする郷土料理の一品です。
れんこんをすりおろして下味をつけ、季節の白身魚や海老、銀杏などの具を入れて蒸し上げ、仕上げに餡をかける椀物で、調理法自体はポピュラーですが、金沢では加賀野菜に認定されている加賀れんこんを使うのが特徴。
つなぎの片栗粉を入れなくてもまとまるほど澱粉質が多く、粘りが強いことから“餅れんこん”の異名を持ち、熱々に蒸したれんこんのモッチリした食感を味わうのが醍醐味です。石川県でのれんこん栽培は、加賀藩五代藩主前田綱紀の時代(1700年頃)から。
当時は金沢城中で観賞用として栽培され、薬用としても珍重されていたそう。食用として注目されるようになったのは明治20年(1887年)以降。
「昔かられんこんを食べると母乳の出がよくなると言われ、すりおろして団子にした味噌汁や、すり流し汁は家庭でよく作られていましたが、はす蒸しはれんこん料理の横綱格です」と教えてくれたのは、金沢の郷土料理研究家・青木悦子さん。
秋から冬へ寒さが募る夕餇にいただく「はす蒸し」は、心まで温まるご馳走なのだそう。

はす蒸し

はす蒸し
すりおろしたれんこんに
具を合わせて蒸し、
餡をかけた滋養豊富な椀物
キャ〜!掘りたての泥付きれんこん、美味しそう!!
節と節の間が短く、肉質が緻密で雪肌のように白い加賀れんこんは粘りの強さが特徴。主な産地である小坂地区ではくわ掘り、河北潟地区では水掘りで収穫されます。
材料はお好みで

れんこんに合わせる具は、とくに決まりがなく、季節のものを使うのが基本。
今回は穴子の蒲焼きと甘海老を使い、秋らしい彩りにきのこや銀杏、ゆり根などを加えて豪華に。

粘りと甘みが増してくる秋れんこんの季節から「はす蒸し」の美味しさが際立ちます

はす蒸し
カットソー¥15,000デニム¥19,000ネックレス
¥11,000(すべてキャラ・オ・クルス)ピアス(私物)

郷土料理研究家で、長町武家屋敷界隈で60年近く料理学校「青木クッキングスクール」を主宰する青木悦子さんに「はす蒸し」の作り方を教わりました。

倉本「加賀れんこんって、白くてきれいですね。秋が旬なのですか?」

――8月中旬から出始めて、5月中旬まで長い期間豊富なはす料理が楽しめますが、夏れんこんは瑞々しく粘りが少ないのでお刺身で食べたり、「はす根羹」といって、すりおろして寒天で固めたりします。9月半ばからだんだん粘りが出てくるので、秋れんこんのほうが「はす蒸し」には向いています。

倉本「採れる時季によって、料理の仕方も変わるんですね」

――「はす蒸し」は、白く仕上げるために通常は卵白を使いますが、味にコクが出るのでここでは全卵を使います。

倉本「穴子と海老も入って美味しそう」

――れんこんの風味を損なわないように鯛など淡泊な白身の魚を入れる場合が多いのですが、最近はひと切れで味が出る鰻や穴子もよく入れます。秋は松茸などを入れてもいいですね。

倉本「豪華〜! 入れる具によっておもてなし料理にもなりますね。簡単だし、家でも挑戦してみたいと思います」

  • はす蒸しボウルにすりおろしたれんこんに溶き卵を入れて、塩とみりんで薄く味付けをします。
  • はす蒸し1人分ずつ器に移し、具材を入れ、さらに上から蓋をするようにれんこんをのせます。
  • はす蒸し蒸し器に入れて、中火で15分ほど蒸し、その間に餡を作っておきます。
  • はす蒸し竹串がスッと通れば蒸し上がり。上からとろみのある餡をかけて完成。

はす蒸しレシピ

材料(4人分)

  • 加賀れんこん200g、卵1/2個、塩・みりん各少々
  • 穴子または鰻の蒲焼き4切れ、甘海老4尾、シメジ½袋(舞茸、松茸でもよい)、銀杏8個、ゆり根8枚、三つ葉またはせり8本
  • 出汁1.5カップ、酒大さじ2、塩小さじ½、みりん大さじ1.5、薄口醤油 少々、水溶き葛粉または片栗粉 適量、わさび(お好みで)

作り方

  1. れんこんは皮をむき、すりおろして塩・みりんで薄く調味し、卵を混ぜ合わせる。
  2. 甘海老は塩水で洗い、胴の殻をむく。シメジは石突きを取り、食べやすい大きさに手で裂く。銀杏は殻を割り、ゆり根ははがして汚れを取り、それぞれ茹でる。穴子の蒲焼きは一口大に切る。三つ葉は茹でて4〜5cmの長さに切っておく。
  3. 1を器に入れ、青味以外の具を加え、中火で15〜20分蒸す。
  4. 鍋にCの出汁、調味料を入れ火にかけ、沸騰したら味を見て、水溶き葛粉を入れてとろみを付け、餡を作る。
  5. 蒸し上がったら餡をかけ、青味、わさびを好みで添える。
四季のテーブル

長町武家屋敷跡を観光がてら気軽に郷土料理を楽しめる

青木クッキングスクールの1階に併設されたレストラン。郷土料理研究家・青木悦子さんのレシピによる「じぶ煮」や冬の「かぶら鮨」など金沢を代表する郷土料理や、山海の旬の味覚を織りまぜた創作会席をお手頃な値段で味わえます。「はす蒸し」は9月中旬〜3月まで。尋ねれば、加賀の食文化や料理法について教えてくれるのも魅力。

四季ごちそう膳
四季ごちそう膳(お造り、八寸、じぶ煮、茶碗蒸し、ご飯、吸い物、香の物)¥2,160(鴨じぶ煮の場合)¥2,460、じぶ煮はお取り寄せ可。
四季のテーブル
DATA
金沢市長町1-1-17 青木クッキングスクール1F
☎ 076-265-6155
営業 9:30〜21:30(20:30L.O.)、9:30〜11:00、
平日15:00〜17:00は喫茶
休み 水曜(祝日の場合は木曜)
ここで食べられます!

加賀野菜に北陸の魚……、「じわもん」を使った郷土の味覚を堪能

美味しい魚とお野菜と、地酒も豊富で最高〜!

金沢には「じわもん」という言葉があります。
もともとは、家庭で食すおかずのことを表す言葉でしたが、最近では地の物のことを「じわもん」と表現することが多く、加賀野菜や日本海で獲れた海の幸などを示す言葉としても使われています。
豊富な食材に恵まれ、伝統的な食文化が継承されている土地柄、料亭や割烹、居酒屋などでも治部煮やはす蒸しといった代表的な加賀料理をはじめ、「じわもん」を生かしたハイレベルな味を堪能できます。

ご主人自らが生けた季節の花や、美しい九谷焼の器でもてなしてくれるカウンターは特等席。
個室として使えるお座敷も2部屋あります。

あじ処 ゐ多゛

四季折々の加賀野菜と旬の魚、心尽くしの季節料理が評判

犀川大橋の袂、伝馬町商店街の入口に店を構える「ゐ多゛」は、地元や東京から舌の肥えた人たちが通う人気割烹。加賀れんこんの産地小坂地区の料亭からのれん分けした店で、れんこんや加賀野菜を使った料理も得意とし、「はす蒸し」は名物のひとつ。地元の新鮮な魚介や地野菜をバランスよく味わえるおまかせコースは¥5,000〜。

あじ処 ゐ多゛
DATA
金沢市片町2-22-1 犀虹ビル1F
☎ 076-234-3533
営業 17:00〜22:00 休み 日曜
できれば来店時に電話確認を
グレーコーディガン¥23,000
袖切り替えニット¥21,000
パンツ¥19,000
バッグ¥17,500
ペンダント¥7,000
(すべてキャラ・オ・クルス)
ピアス・(私物)
倉本康子

撮影/渡辺晃行 モデル/倉本康子 スタイリスト/加藤万紀子 ヘア・メーク/高梨 舞 取材・構成/秋山美英

STORY 2015年11月号より