和食STYLE

⾼橋綾⼦のNO SUSHI, NO LIFE – 第五二回 すし処 志喜

第五二回 すし処 志喜

丁寧な仕事ぶりが美しい鮨を作る!

神経締めで高名な長谷川大樹さんが手あてした魚が大半を占めていること、銀座なのに3万円いかないことなどで絶大なる人気を誇るお店で、SNSでずっと気になっていたところ常連さまにお連れいただきました。銀座からも東銀座からも程近い雑居ビルの 3 階にありまして、店内は9席のカウンターのみ。この日は落ち着いた年齢の方々ばかりで、常連さまの連れということもあり、親方の吉村匡史さんも最初からにこやかな笑顔で迎えてくれ、和やかな雰囲気ではじめまして感はまったくありません。

つまみからの握りになるおまかせコースは食べログによると 16,500円、19,800円、23,100円があるようですが、私は常連さまのいつものコースだったようで価格はわからず。先につまみが出て握りというスタイル。派手さはまったくありませんが、とにかくきちんと仕事をしているといった印象です。お通しの「海老芋シルキー」は里芋の一種なので皮が毛羽立っているはずですが、キレイにカットしてあって皮ごと食べてもシルキーでなめらか。最初がこうだと絶対においしいでしょ!という気になります。

予感は的中! 続くつまみも見た目は切ってのせた感ですが例えば長井漁港のタコなんて本来の香りがぷわんと立ち、身は引き締まっているけどやわらかい。とろんとした口溶けの煮蛸もいいけど、お刺身タコならやっぱりこうでなくっちゃ!と思わせる。加えてマカジキを生ハムにしたりまんぼうの腸を菜の花胡麻和えにしたりとちょっと変わったおいしさも披露してくれます。剣先イカから始まった握りはやはり鮨ダネのおいしさが歴然で、酢飯はタネによって米酢と赤酢の2種類を使い分けしています。どちらも粒が立ち硬めでほろりとほどけます。酸はキリッとしているけど強すぎずタネを引き立たせています。

タネは熟成させたり、当日締めにしていたりで食感がおもしろい。ホウライヒメジなんてあまり聞いたことない魚でしたが新鮮味がありつつしっとりと熟成感も感じさせてくれます。メジナは新鮮そのもの! コリッコリとして弾力がすごい。コハダは流石と言える仕事っぷり。酢できっちりと締めて赤酢の酢飯に煮切りの量も完璧で典型的な江戸前を教えてくれます。長谷川さんから勝手に送られてくる魚をおいしくする技術がある吉村さんって本当にすごいと思います。勝手に送られるので鮪がなかったりもするそう。本日だって鮪はキハダマグロの赤身だけでした。と言っても最高と言える味わいですが。

この店にいるとおいしいものっていくらでも食べられるって本当なんだなと実感します。確かにつまみはひとくちサイズだし酢飯もかなり小さめですがこれだけの量を食べた感はまったくしないんです。日本酒は吉村さんの出身の岩手「浜千鳥」を米違いとか製法違いとかで揃えていて飲み比べがいちばん! おまけに和らぎ水も岩手の龍泉洞のものとこだわります。本日のお会計、麦焼酎ソーダ割と日本酒4合、つまみが14品、握りが小丼含めて18貫、玉、味噌汁、水菓子、デザートのアイスで 29,810 円でした。魚のヒレのコレクターで本まで出しちゃった女将さんとの掛け合いも楽しく、銀座でこれだけ食べてこの価格、ぜひ通わせていただきたい!

綾⼦の⾃分勝⼿評価基準
おひとりさま度:ひとりではもちろんのこと、たとえ初めてでも楽しめるかどうか。また何か素敵なことが起こるか、客層はどうかも含む。
⼝福度=価格の満⾜度:鮨⾼騰の折、基準は⾷べて飲んで 4万円以下。おいしいは当然、⽀払いをした時にどう感じたか。
ロケーション&設え:「google map」で迷わずたどり着けるか。内観のセンス、器や酒器、トイレの清潔感など店内の印象。
サービス:スタッフの接客の満⾜度
のどの渇き度:完璧に個⼈的主観だが、塩分過多などでのどが乾くような味が苦⼿。評価は星が多いほど、のどは渇かないということ。

【評価】
おひとりさま度 ★★★★
⼝福度=価格の満⾜度 ★★★★
ロケーション&設え ★★★★
サービス ★★★★
のどの渇き度 ★★

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⾼橋綾⼦
(たかはしあやこ)

フードパブリシスト。国内外ファッションブランドのプレスとして従事した中で肥えた“食”へのこだわりは、その後の素晴らしい人々との出会いと相まっていつしか人⽣そのものに。
その間に培った食のデータと人脈を武器に、年間 1000 軒ほどの外食で“喜ばれるレストラン”の発掘に勤しむ⽇々。「綾⼦のギョーカイ総受けグルメ手帖」「BRUTUS」「GQ」「食べログマガジン」「集英社オンライン」などに寄稿。BS フジ「リモート☆シェフ」では審査員として定期的に出演。
東京都主催の食の祭典、「Tokyo Tokyo Delicious Museum 2023」のプロデューサーに就任。また企業のメニュー開発やアドアイザーにも携わる。おいしいものしか喉を通らない不思議体質。