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とんかつ3名士 河田部長の とんかつひとり旅㉟ とんかつ乃ぐち(大阪・中津)

全国のとんかつ店の中でも屈指の予約困難店です。予約制で毎月1日の0時にネットで翌月分の予約受付を開始しますが、ほぼ瞬殺です。私も要領がよく分からず、5度目でようやく予約に成功しました。

店のロケーションには驚かされます。大阪駅の北、中津駅で下車し、シャッター商店街の細道を通って店の前に辿り着くと、昭和の雰囲気が漂う古いアパートの一階に入口があります。とても店があるような場所ではありません。店に入ると狭い空間に5席のみのカウンターがあります。

店主の野口典朗さんはイタリアンの出身で2021年11月にこの店をオープンしました。メニューは一斉スタートのおまかせコース仕立てになっており、4貫(4切れ)か6貫(6切れ22の選択になります。よほど少食でない限り6貫にすべきでしょう。このコースでは部位ごとに異なる銘柄豚が使用されます。

この日用意されていたのは望来豚(ヒレ 部位違い2貫)、京丹波ポーク(ロース)、林SPF(肩ロース)、平田牧場三元豚バークシャー50(ロース)、三右衛門(リブロース)の5銘柄6貫でした。自家熟成させた肉の食べごろを見極めて出すそうです。それぞれの肉に目を凝らしながら、パン粉やそのつけ方を変えていきます。そしてラードを主体に配合した揚げ油で揚げます。低温で二度揚げしています。それぞれの肉に合わせて時間や温度を精緻に調節しています。

肉は1貫ずつ提供されます。それぞれが肉汁で断面が輝いています。中でも驚かされたのは林SPFの肩ロースです。林SPFはレア揚げをする店が多いせいか、旨味が淡白に感じられることが多いのです。それに対してこちらのものは経験したことのない濃密な味でした。

締めは2種類から選びます。この日は醤油かつ丼とカツカレーでした。醤油かつ丼にも惹かれたものの、カツカレーが好きなのでつい選んでしましました。カレーととんかつの相性が絶妙でした。

この店は現代のとんかつの最先端と言っても過言ではないと思われます。頑張って予約して行く価値は十二分にあります。来店回数の制限などの対策を講じたそうなので、今後少しは予約しやすくなるかもしれません。

お勧めポイント
● とんかつの最先端
● 多様な肉の個性が味わえる

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河田 剛

大手証券会社の調査業務に携わる傍らでグルメアナリストとしても活躍。さまざまな料理を食べ歩き、著書『ラーメンの経済学』(KADOKAWA)で話題に。料理の背景や素材、流通に至るまで、幅広い視点での鋭い洞察が特徴。