和食STYLE

⾼橋綾⼦のNO SUSHI, NO LIFE – 第五〇回 立喰すし魚河岸山治

第五〇回 立喰すし魚河岸山治

握る人が大事だと痛感

お鮨はカウンターを挟んで人の手から人の手に渡される食事です。だから握る人によっておいしさが違います。この連載ではそれを評価しているわけですが、我ながら本当にその通りだと感じたのがこのお店。日比谷線から直結していて 超便利な「虎ノ門ヒルズ T-MARKET」。この中には結構おいしいお店が集結していてよく使っています。で、早い時間は並んでいてなかなか入れない「立喰すし魚河岸山治」に何度目かのトライでようやく伺えました。こちら、予約はできないので待つかどうかはタイミング次第。19時過ぎに到着すると待ち人は1人のみ。これは並ぶしかないと待つこと10分で案内されました。

オーダーは席ごとのタブレット。確かに立ち食いだけどさ、「今日は〇〇がおすすめです」とか、なんか言葉ないのか?と思いながら、すでに飲んで食べてきたので最初から冷酒にしてついでに「たこのやわらか煮」もオーダー。「日高見」500円って安いじゃんと思ってたらグラスがあまりにちっちゃくてびっくり! これ溢れさせて100ccくらいじゃないのか? たこは確かにやわらかだけど今、冷蔵庫から出しましたって温度で興醒め。おいしいものを提供しようという気がないのかと思っちゃう。

付け場には2人の握り手さんがいて私の側の人はどうやら奥にいた T-MARKETで働いているらしき男の子と楽しそうに喋ってばかりでこっちは完全放置。そもそもタブレットがあるんだから勝手にオーダーすればいいんじゃない?的な雰囲気ですっごくアウェーな気分にさせられながらも、「今日は鰆、どうですか?」とか「おすすめはなんですか?」とか頑張って話しかけましたよ。でも「鰆? いいですよ」「ま、鰤ですかね」と答えてはくれるけど続かない。仕方ないのでとりあえず無言でタブレットをタップして待つ。すぐ出てくる(お鮨なんだからそりゃそーか)→食べる→タブレットをタップの繰り返し。

つまみは「白子」とか「タコの吸盤焼き」とかそつがなく、「香箱蟹」とか旬なものもあったりして気が利いている。握りはというと、おすすめされた鰤はとろ っとしておいしいけど酢飯はちょっと乾燥気味。鰆はめちゃ肉厚に切って酢飯を挟んでいるのは好感が持てる。大トロは牛肉かと思うくらいトゥルンとした舌触り。惜しいのはスジがあるくらいか。総じて鮨ダネは質が良く、立ち食いの中ではおいしい方だと思うけど、とにかくこのアウェー感が辛い。仕方ないので隣で何種類も食べている人に「何がおいしかったですか?」と聞いてオーダーする始末。それをきっかけに話が弾み、おいしいお店を教えあったりしてスタッフよりよっぽど親切だった。その人が帰ったのでもう居ても楽しくないしとお会計してもらうと日本酒3杯、つまみ2品、握り6貫で4,820円。お会計を待っていると、もう一人の握り手さんは「メニューにないものは〇〇と〇〇です。何でも言ってくださいね」と。あぁ、人って大切だと実感しました。

綾⼦の⾃分勝⼿評価基準
おひとりさま度:ひとりではもちろんのこと、たとえ初めてでも楽しめるかどうか。また何か素敵なことが起こるか、客層はどうかも含む。
⼝福度=価格の満⾜度:鮨⾼騰の折、基準は⾷べて飲んで 4万円以下。おいしいは当然、⽀払いをした時にどう感じたか。
ロケーション&設え:「google map」で迷わずたどり着けるか。内観のセンス、器や酒器、トイレの清潔感など店内の印象。
サービス:スタッフの接客の満⾜度
のどの渇き度:完璧に個⼈的主観だが、塩分過多などでのどが乾くような味が苦⼿。評価は星が多いほど、のどは渇かないということ。

【評価】
おひとりさま度 ★★
⼝福度=価格の満⾜度 ★
ロケーション&設え ★★★
サービス ★
のどの渇き度 ★★★★

過去記事はこちらから

過去記事はこちらから

⾼橋綾⼦
(たかはしあやこ)

フードパブリシスト。国内外ファッションブランドのプレスとして従事した中で肥えた“食”へのこだわりは、その後の素晴らしい人々との出会いと相まっていつしか人⽣そのものに。
その間に培った食のデータと人脈を武器に、年間 1000 軒ほどの外食で“喜ばれるレストラン”の発掘に勤しむ⽇々。「綾⼦のギョーカイ総受けグルメ手帖」「BRUTUS」「GQ」「食べログマガジン」「集英社オンライン」などに寄稿。BS フジ「リモート☆シェフ」では審査員として定期的に出演。
東京都主催の食の祭典、「Tokyo Tokyo Delicious Museum 2023」のプロデューサーに就任。また企業のメニュー開発やアドアイザーにも携わる。おいしいものしか喉を通らない不思議体質。