和食STYLE

⾼橋綾⼦のNO SUSHI, NO LIFE – 第四九回 鮨こう介

第四九回 鮨こう介

熟成加減がいい!けどロケーションが…

店主、安部憲介さんは三つ星日本料理店で修業し、25歳で独立。10年間割烹料理店を営み、「鮓ふじなが」の一品料理のメニュー監修に携わったことで鮨の世界へ。こちらのオープンに際し、逆に「鮓ふじなが」がメニューを完全監修しているので、席に着くとすでに用意されている酒のアテ4種や、あの“名刺がわりの一貫”はもちろんのこと、握りの合間につまみを挟んでくるスタイルです。席について喉を潤すための麦焼酎ソーダ割りを飲みながら4種のつまみをちびちびやっているときました! “名刺がわりの一貫”が。本日は青森八戸の180kgの本鮪。筋と血栓をピンセットですべて取り除いてから50の包丁を入れた中トロはマジ溶けるくらいとろんとろん。やはりこれは圧巻だな。

続いてシュー生地の上に酢飯、粉末の海苔、鮪の中落ち、甘海老の漬け、いくら、雲丹、キャビアを層にしたひとくちサイズの「お鮨のミルフィーユ」。おもしろいけどタコスとかタルトとかサブレとかシュー生地じゃない方がいい気がする。そして外子を合わせた蟹酢のジュレが雪崩のようにかかっている「香箱蟹」がつまみで出ると、次は握りでアオリイカと玉ねぎ醤油に1週間漬けた鰤が。どちらもいい熟成加減でめちゃおいしい。

赤酢と白酢と米酢をブレンドしている酢飯はバランスがよく疲れません。鮪も平目もコハダにも鮨ダネが熟成しているからかしっくりきます。特筆すべきは酢飯の美しさ。小さめの楕円形で大きさも形もほぼ狂いなくきれいに揃っているんです。日本料理出身だからでしょうか、見た目にこだわりすぎってくらいこだわっている。でもま、“美しい”は“おいしい”につながりますからね。

つまみはどれも秀逸です。しじみと鶏肉の出汁を使っていてなぜかとうもろこしの味になった「帆立の茶碗蒸し」、幽庵焼きしたノドグロをおじやと卵黄のソ ースと混ぜて食べる「ノドグロのおじや」、最後のお味噌汁とか、さすがの腕前。握りも車海老には自家製の海老味噌を忍ばせたり、穴子もふわふわで甘さもち ょうどいいしどれもおいしゅうございます。予約だけで完売してしまう「とろたくキャビア」も甘み、うまみ、塩みのバランスがよく、確かに「お代わり」と言いたくなる。

そして美人女将さん、ホテルのパティシエだったそうでデザートがまたいいんですよ。「夢」と名付けたラ・フランスのシャーベットとシャインマスカットと青リンゴゼリーに生姜のブランマンジェのデザート。お鮨屋さんでこういうデザートが出ることがないので嬉しい。お会計は麦焼酎ソーダ割りと日本酒3合で40,900円とちょっと高いと思ったけど、時間は自由に選べるしおいしいしで満足度高い。問題はロケーション。新宿駅から数分なので当然歩くんですけど街並みが騒々しいし汚い。とても高級鮨を食べに行こうっていう感じじゃないんです。食べた後もすっかり興醒めしてしまうし、ごはんってロケーションも大事だなと痛感しました。移転してくれないかな。

綾⼦の⾃分勝⼿評価基準
おひとりさま度:ひとりではもちろんのこと、たとえ初めてでも楽しめるかどうか。また何か素敵なことが起こるか、客層はどうかも含む。
⼝福度=価格の満⾜度:鮨⾼騰の折、基準は⾷べて飲んで 4万円以下。おいしいは当然、⽀払いをした時にどう感じたか。
ロケーション&設え:「google map」で迷わずたどり着けるか。内観のセンス、器や酒器、トイレの清潔感など店内の印象。
サービス:スタッフの接客の満⾜度
のどの渇き度:完璧に個⼈的主観だが、塩分過多などでのどが乾くような味が苦⼿。評価は星が多いほど、のどは渇かないということ。

【評価】
おひとりさま度 ★★★★
⼝福度=価格の満⾜度 ★★★
ロケーション&設え ★
サービス ★★★★
のどの渇き度 ★★★★

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⾼橋綾⼦
(たかはしあやこ)

フードパブリシスト。国内外ファッションブランドのプレスとして従事した中で肥えた“食”へのこだわりは、その後の素晴らしい人々との出会いと相まっていつしか人⽣そのものに。
その間に培った食のデータと人脈を武器に、年間 1000 軒ほどの外食で“喜ばれるレストラン”の発掘に勤しむ⽇々。「綾⼦のギョーカイ総受けグルメ手帖」「BRUTUS」「GQ」「食べログマガジン」「集英社オンライン」などに寄稿。BS フジ「リモート☆シェフ」では審査員として定期的に出演。
東京都主催の食の祭典、「Tokyo Tokyo Delicious Museum 2023」のプロデューサーに就任。また企業のメニュー開発やアドアイザーにも携わる。おいしいものしか喉を通らない不思議体質。