和食STYLE

とんかつ3名士 河田部長の とんかつひとり旅㉘ とんかつ 16(広島・胡町)

広島に注目の店があると聞き、出かけました。広島の盛り場、流川の飲食ビルの 1 階に店はあります。基本的に予約制ですが、席があれば入れる場合もあるようです。円形のカウンターに 6 席のみでこじんまりとしています。営業はご夫婦二人でされています。ご主人は東京出身でいわゆる I ターンだそうです。実家もとんかつ屋で、西麻布の「豚組」や代々木上原の「武信」で長く勤務された後、自分のとんかつを追求する場として広島を選ばれたようです。

数種類の銘柄豚を選択出来る、地方では珍しいスタイルを採用しています。訪問した日に用意されていたのはロースが天城黒豚、望来豚、幸福豚、和豚もち豚、ヒレが梅山豚、どろぶた、幸福豚などでした。未食だった望来豚のロースを選びました。望来豚は北海道石狩で食品会社などから出た未利用のジャガイモ、パン粉などを砕いて発酵させた自家製飼料を与えて育てられている三元豚(ランドレース、大ヨークシャー、デュロックの交配)です。適度に火を通された肉は穏やかな味わいで、甘み、旨みがじわじわと感じられます。衣は多くの名店が使用している中屋パン粉工場のパン粉を取り寄せています。かなり粗めの衣で、箸でつまむとハラハラと落ちますが、衣自体が美味しいのでご飯と一緒に食べても良さそうです。油はオランダ産ラードが主体ということです。面白いのは自家製ラードを加えていることです。ここまでする店はなかなか見かけません。

卓上にあるのは海井上塩、井上古式醤油、自家製ソース、自家製ドレッシングです。奥出雲の井上古式醤油は非常に旨み、コクのある醤油でとんかつの味を引き立てます。ソース、ドレッシングも奥行きのある味です。ご飯は熊本の森のくまさんという品種のようで控えめながらとんかつとは好相性です。

気さくなご主人はとんかつ愛に溢れており、色々と教えてくれます。広島ではついお好み焼きなどに目が向きますが、とんかつ16も外せない存在だと思います。

お勧めポイント
●地方では珍しい多品種選択方式
●細部にわたるご主人のこだわり

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河田 剛

大手証券会社の調査業務に携わる傍らでグルメアナリストとしても活躍。さまざまな料理を食べ歩き、著書『ラーメンの経済学』(KADOKAWA)で話題に。料理の背景や素材、流通に至るまで、幅広い視点での鋭い洞察が特徴。